今回から数回、関西各府県ごとの鍾馗さんの特徴や見つけ方についてふれていきます。
一回目は「聖地」奈良県。
精巧なものから上のような素朴なものまで、多様性は他県の追随を許しません。

鍾馗さんの分布


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この地図の通り、奈良盆地全域にわたって満遍なく見られます。
東部の大和高原や県南部、五條~吉野以南の山地にはあまり行っておらず
よくわからないのですが、ほとんど分布していないと思われます。

見つけかた


先回、鍾馗さんが揚げられるようになった経緯と、「お寺鍾馗」「突き当り鍾馗」について触れましたが、
奈良県の鍾馗さんの七割程度はお寺鍾馗のようです。
これは他府県に比べてもかなり高い数字で、鍾馗さんを見つけるのにはありがたい。
だってお寺を訪ね歩けばいいのですから。
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あの法隆寺の周囲にも鍾馗さんはたくさんある。文化財に指定されている鍾馗さんはもちろんない。

寺院を取り巻くように鍾馗さんがにらみを利かせていることが、おわかりいただけると思います。
こんな大有名寺院だけではなく、村の小さな小さなお寺の周りでも、奈良ではきっちり鍾馗さんを見ることができます。

奈良県を歩いていてお寺の屋根を見かけたら、少し立ち寄ってみましょう。
鍾馗を探すベストポジションはお寺の境内。本堂の前に立ってぐるりと周りの民家を見渡してみれば、かなりの確率で鍾馗さんを見つけることができますよ。
門が閉じていて境内に入れない場合も、門前にたたずんで向かいの屋根を眺めてみれば鍾馗さんが眼に入ってきます。

奈良の農村散歩の楽しみ


奈良盆地には歴史ある小さな集落がかなりの数、現存しています。住宅開発が進み新興建売住宅群に囲まれていたりしますが、地図を眺めていると、曲がった道筋と不規則な地割りで古い集落が浮かび上がってきます。
これらは惣村といって中世以前に起源が遡れるらしく、外敵からの防衛のために密集した家々の周りに濠を巡らせたものは環濠集落と呼ばれています。

こういった集落内には寺院があることが多く、鍾馗探し人も吸い込まれるように入っていきます。
車が入れないような狭い道に沿って重厚な作りの家が立ち並ぶさまは見ごたえがあり、さらに感心するのは片付けや掃除が行き届いている家が多いこと。統計を取ったわけではなく感覚でものを言ってますが、他地域に比べても、奈良のこういった集落住民の共同体意識は明らかに高いような気がします。
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天理市南六条北方 無名の集落だが見事な環濠が見られる


余技ですが、こういった名もない風景をPanoramioにアップしていますので、
よろしければご覧ください。
http://www.panoramio.com/user/1685441

奈良の鍾馗さんの特徴


話がそれました。
奈良の鍾馗さんの特色といえば、手作りの一品物が非常に多いこと。
鍾馗さんが多く作られた幕末から昭和30年代くらいにかけて、まだ産業の集積が進んでいなかった時代に奈良には無数の瓦屋さんがあって、それぞれが勝手に鍾馗さんを製作していたのだと思います。
鬼瓦を作る職人を鬼師と呼びますが、「鍾馗」を作るにあたって今のように情報があふれていない世の中、彼らはどこかで見た鍾馗さんの記憶を頼りにてんでに変てこな鍾馗さんを生み出していったのでしょう。

奈良の変てこ系代表選手を集めてみました。
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これ以外にも山のように変てこ鍾馗さんがありますし、精巧な技巧派鍾馗さんもそれ以上にたくさんあります。

平城遷都1300年祭でにぎわう奈良を訪れたら、東大寺や奈良公園のついでにぜひ「ならまち」でみちくさしてみてください。ここでもあちこちに鍾馗さんを見ることができます。




  • Kite

  • 鍾馗を尋ねて三千里

  • 鍾馗博物館

  • 愛知県在住の会社員、1961年生まれ。
    週末のたびに関西方面へ遠征し、民家にひそむ鍾馗さんに望遠レンズを向けてます。
    不審尋問には笑顔とポケット版鍾馗ファイルで対抗するも、追い払われることもしば
    しば。