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「私は換気口を鑑賞しています」と目の前の私が言ったとして、あなたはピンと来るだろうか。
殆どの人は「換気口?」と怪訝そうな顔をし、「あーあれね」と答えた人は大抵違うものを頭に浮かべている。「ダイナミックでいいですよねー」などと答える人がいたら何と勘違いしているのかさえわからない。

私の鑑賞する「換気口」とは、ビルの壁面にポツポツとリズムよく配置されている換気口のことである。
大規模なタワーマンションや、一軒家ではなく、中層の何の変哲もないビルやマンションの壁面にそれはある。ときには競り上がるように、ときには不規則な並び方で、ときには数えきれないほどの数量で換気口は壁に並ぶ。そして、その配置、種類、高さ、壁との調和、など様々な観点からそこに素晴らしきを見出す。私のやっているのはそういうことだ。

一部の例外はあるものの、もともと換気口は「鑑賞に堪え得るようなもの」として、意図的に配置されたものではない。建築に携わる人が、建物の内部を設計し、法律で決められた範囲で換気システムを配置し、外に出す口を設置してみた結果として、壁に配置されて「しまう」ものだ。つまりそこに意図はない。
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女性が意図してつくるアヒル口が媚びでしかないように、私は意図的に設置された「かっこいい配置でしょ」的換気口は好きではない(大概それはコンクリート打ちっぱなしの壁だ)。いや、好きではないは言いすぎかもしれないが、意図的なものには超えられない限界があると思うのだ。
よく「子供と動物には勝てない」と言うように、いくら意図的に何かをしても、無邪気・無意識から偶々生み出される天才的な反応を超えることは難しい。私は換気口にそんな「無意識の美」を見出している。

この写真を見たのち、是非、街に出てみて欲しい、必ずあなたはビルの壁面の換気口が気になるようになっているはずだ。そして、今まで目に入りながら見ていないものがこれほど街にあふれているということに驚くはずだ。

現在のところ、日本で唯一、いや世界で唯一私しかやっていない趣味、換気口鑑賞。門戸はいつでも開いている。




  • 前川ヤス

  • がらり~換気口鑑賞団 

  • 1972年生まれ北海道出身。2007年春頃、電車の車窓から見える換気口配列の美に魅せられ、「日本に一人しかいない趣味(タモリさん認定)」換気口鑑賞を始める。一児の父。