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路上の欄干 東京都品川区西品川



街を歩いていて、ふと、通りに交差する車止めのある路地や、蛇行した遊歩道、あるいは細長く伸び、何にも利用されていない空き地に出くわしたことはないだろうか。
路地の入り口に、シンボリックな車止めがある場合もある。遊歩道と書いてはあるが、とてもそんな小洒落たものには見えない。
michikusa01-02金太郎の車止め 東京都杉並区荻窪


路上に「水路敷」と書かれていることもある。しかし、どこにも水は流れていない。
michikusa01-03水路敷の表示 東京都練馬区南大泉

道の真ん中に、コンクリートの板がずらっと並んで道とは違った曲がり方をしながら続いていることもある。
michikusa01-04コンクリート蓋 東京都杉並区阿佐ヶ谷北

冒頭にあげた写真のように、川もないのに橋の欄干があることもある。

これらはいずれも、かつて川が流れていた痕跡だ。そこに流れていた川は、蓋をされたり、土管を埋め込まれて、地中へ潜っている。このような川の流路の痕跡は、ふつう「暗渠(あんきょ)」と呼ばれている。

「暗渠」とは、蓋をされた河川や、地中に埋設した水路のことを指す言葉だ。だから、暗渠の上の道は正確には暗渠そのものではないし、地中の水路が分断されたり埋め立てられたりしているばあいは、厳密には「川跡」と呼ぶべきだろうが、それらも含めて、ここではかつて川が流れていた場所を暗渠と呼んでおこう(なお、農地などに水はけを良くするためにつくられる地下排水路も暗渠と呼ばれる)。

暗渠には、幅数十センチのものから数メートルの幅のものまで、さまざまな規模のものがあり、それらの利用のされ方も、近所の人たちの生活路から、うち棄てられた空き地、民家の庭代わり、公園のように立派に整備された緑道、道路などさまざまだ。暗渠の下の川は、地中でそのまま川として流れて、どこかで姿を再び水面を現わすこともあれば、下水道に転用されてしまっている場合もある。
いずれにしても、そこにはもともと川が流れていたわけだから、水が高いところから低いところへと流れる原理の通り、暗渠も高いところから低いところへと続いていく。暗渠を辿っていくと、もう少し大きな川の暗渠に合流したり、水の流れている川へと行き着くこともある。
さらにそのまま辿っていけばそれは原理上は海へとつながっているわけだ(湖や沼の場合もあるだろうけど)。そこに水は流れていなくとも、この暗渠を流れていた川はどこからきてどこへいくのか辿る面白みがある。

そして、暗渠を辿ることはそのまま地形にそって街を歩くこととなる。地形を無視して通っている鉄道網や道路網によって平面的に把握される街の姿とは異なった、地形に沿った川のラインから立ち上がってくる立体的な空間は、ときに新鮮だ。たとえば町名や坂名などの地名が、暗渠を意識することによって、単なる名前ではなく地形と結びついて立体的に浮かび上がってきたりもする。

一方で、暗渠沿いには、表通りではみられない、時間に取り残されたような風景も垣間見られる。古い町並み、川がかつて流れていたころの痕跡、ひっそりと残る湧き水や井戸・・・暗渠沿いの風景や地形を手がかりに、失われてしまった水の流れる風景を頭の中で復元し、そこに秘められた小さな歴史に想いを馳せながら歩くのも、これまたなかなか楽しいものだ。

これから、そういった暗渠や川跡を辿りつつ、その魅力を紹介して行こう。
東京都内の暗渠を中心に、ときには現存する川も取り上げていきたい。
michikusa01-05川跡の路地 東京都品川区戸越