「換気口といえば煤とかタレが気になりますよね」
これは換気口の件で某テレビ朝日系の番組に出演した際、出演者の方から問いかけられた疑問だ。
確かに古い建物の換気口からは何やらよくわからない汚れが黒く垂れていることが多い。そして、これらの煤汚れは多くの人が、風呂の水垢のように落とすべきものと考えている。
しかし、どうだろう。谷崎潤一郎を引用するまでもなく、日本には不完全なものや朽ちかけたものをわびさびとしてとらえ評価する文化がある。
また、軍艦島や廃墟ブームをみてもわかるように、滅びゆくものを鑑賞し、そこに美や無常を見出す人も数多い。

このような日本で、換気口から出た煤をわびさびと解釈できぬ理由はあるまい。
寧ろ、私は、縦に流れ落ちる黒い汚れを水墨画の滝に見立てることで、ビルの壁に雪舟の筆を観ることさえ出来る。

あるいは、上記タイトル写真。ティム・バートン監督作品の1シーンと言われればそうかな、と思う人もいるのではないだろうか。横からジョニー・デップが顔色の悪いメイクで出てきてもおかしくないかなと、そう思えるのではないだろうか。このような写真が撮れるのも換気口から汚れがダラダラと垂れ流されているからと思えば、そこに意義を見出すことも出来よう。

古仏像の緑青が落とされ、黄金色に復元されたとき却ってありがたみがなくなってしまうように、さびにはさびの、煤には煤の味がある。
これからもタレも含めて換気口鑑賞していこうと思う。

みちくさ学会で取り上げられているものの多くは、その経年劣化も含めて楽しめるものが多い。
日本人ならばその劣化も含めて、味と捉える心を忘れないようにしたい。

michikusa18




  • 前川ヤス

  • がらり~換気口鑑賞団 

  • 1972年生まれ北海道出身。2007年春頃、電車の車窓から見える換気口配列の美に魅せられ、「日本に一人しかいない趣味(タモリさん認定)」換気口鑑賞を始める。一児の父。