看板建築のおもしろさはその「看板」部分にありますが、「耳」を見上げて分類してみると鑑賞の楽しさが広がります。I字型よりコ字型が良い?
看板建築の「耳」を見上げてみる
看板建築というのは、正面から見ると洋風2階建てに見えますが、後ろは和風の建築様式のままであることがほとんどです。和風の建物のファサード(前面)にのみ、看板状の板を貼り付けて洋風に見せかけていることが多いからです。私は街歩きをしながら看板建築を探すときいつも建物の「耳」を見ています。「耳」というのは建物の上部の両端のことです。一見すると洋風の建物が実は看板建築であるかどうかを確認する一番よい方法であるからです。
「耳」があるということは、実際の建物の構造と関係のないファサードが存在するということです。逆に「耳」がないということは、その裏側もしっかり2階や3階がある建物だということになります(この場合、昭和の後期に建て替えた建物の可能性が高い)。
そこで、看板建築に興味がある皆さんのみちくさ散歩の参考になるよう、看板建築の「耳」の分類方法をご紹介したいと思います。おそらく本邦初の試みではないかと思います。年末年始のみちくさ散歩の参考になれば幸いです。
I字型看板建築~シンプルベーシックな板一枚
「I」の字のとおり、建物の前面に文字通り「まっすぐ板一枚」の形状で看板建築が作られている物件を「I字型看板建築」と呼んでみます(以下、私が勝手に呼んでいるだけで、学術用語ではありません)。写真のように真横から見ると、本当に板一枚が和風の建物の正面にくっついているのが「I字型」の特徴です。屋根よりも高めに板が「I字型」に張り付いていて、正面から見ると洋風になっているわけです。
I字型看板建築はシンプルベーシックと言いますか、単純な作りで和風の建物を商業建築に変更した印象です。しかし、その「薄さ」をもってしても洋風の外装を作りたかったのだろう、という建築当時のご主人の気持ちがしのばれます。
「耳」を見上げたとき、見分けやすいのも「I字型」の特徴です。看板建築鑑賞の入り口として、注目してみたいところです。
I字型看板建築の例。真横からみると、本当に板一枚を被せてあることが分かる。
コ字型看板建築~ほんの少しの丁寧さとこだわりが垣間見える
カタカナの「コ」の字のように、建物のサイドも囲われた看板建築を「コ字型」と呼んでみたいと思います。建物の正面だけでなく、横も少しだけ看板で覆うことで、斜め横から見ても「これは洋風だね?」と誤解させる作りです。「コ字型」は「I字型」より作りが丁寧な看板建築といえます。予算にほんの少し余裕があったかもしれませんし、ご主人の「粋」やこだわりが正面だけの看板をよしとしなかったのかもしれません。あるいは大工の職人魂が横も囲う施工になったのかもしれません。
とはいえ、コ字型であっても建物の奥まで全て看板を張っているわけではありません。表通りから気にならない程度まで覆うので、カタカタの「コ」というほどサイドはしっかり作り込んでいないので、むしろカッコを閉じる記号の「 ]」のようになっていることもあります。これもまた、看板建築の「擬洋風」なおもしろさです。
「コ字型」も建物と建物の隙間を見上げれば「耳」が分かります。ぜひ見上げてみてください。
コ字型看板建築の例。建物の角も看板で覆われているが、真横からみると建物全ては覆われていないことが分かる。なお、左上建物の裏から眺めた写真が右上だが、コ字型に覆っていることがよく分かる。
L字型看板建築~角地に面した看板建築の工夫
最後は「L字型」看板建築をご紹介します。これは角地にある看板建築によく見える様式です(繰り返しますが、勝手に名付けているので、学術用語ではありません)。看板建築は和風建築のファサードを工夫して「洋風建築っぽい」ところを狙って建てているわけですが、建物の横に小道があったり、交差点等の角地にあれば、正面だけ覆っても和風であることがバレてしまいます。
そこで、表通りに面している部分のファサードを看板化した結果、「L字型」になっていることが多くあります。交差点の角が斜めに切られている場所では、L字型がさらに複雑な形になり、看板建築の印象も強くなります。
交差点などは、人が行き交う場所ですから、角地にある建物は立派な商店であったりします。おそらく、看板建築に建て替える際にも、きちんと角から見える部分を覆ってもらえるよう、棟梁にお願いしたのではないでしょうか。
「L字型」はぱっと見で見分けにくいので、右から左から見上げて確認することが必要です。しかし、堂々とした物件が多いので、発見したときの楽しさがあります。
L字型の例。角地に建っているのでファサードの二面を看板としている。
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さて、看板建築を「I字型」「コ字型」「L字型」などと勝手に分類してみました。私の個人的分類でしかありませんが、みちくさ鑑賞用には便利だと思いますので、ぜひご活用ください。
冬の時期は街路樹も葉を落とし、通りに面していることの多い看板建築鑑賞に絶好のシーズンです。来年も、素晴らしい看板建築の世界をご案内しますのでお楽しみに。よいお年を!
(撮影地:新宿区高田馬場、台東区下谷・入谷・竜泉・根岸、文京区大塚・白山、千代田区神田神保町・富士見あたり)
<追伸>
「これは!」という美しい看板建築がありましたら、twitterでかまいませんので、いつでも情報をお寄せください。気がつくとどんどんなくなる運命にある建物ですので、できるだけ写真を撮りにいきたいと思っています。連絡お待ちしてます。
- 山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)
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- 1972年生まれ。本業はファイナンシャルプランナー。資産運用とか年金のことを分かりやすく書いたりしゃべるのが仕事。副業はオタク。ゲーム・マンガ・街歩きを同時並行的に好む。所属学会は日本年金学会と東京スリバチ学会。Twitterアカウントは@yam_syun