愛知県西部地方特有の神社にある不思議な施設「蕃塀」
この写真は愛知県西北部の稲沢市内にある稲島八幡社の正面を撮影したものである。画面中央の鳥居の向こうにみえる白っぽい塀が、ここで話題とする「蕃塀」である。その奥には拝殿や本殿などの社殿が建っているのだが、それらをまさに覆い隠すように蕃塀は屹立している。まるで、参拝者を遮蔽し、拒絶しているかのようである。
このような神社の風景は、愛知県北西部を中心に良く見ることができる。蕃塀は一般に尾張地方によく分布しているといわれているが、尾張の中でも東部の丘陵地帯や南部の知多地域ではあまり見かけることはないものである。「蕃塀」はもともと「不浄除け」と呼ばれていたらしく、現在も地元の方々は「不浄除け」と呼ぶ場合が多い。
「不浄除け」と別称があるくらいであるから、蕃塀は神社やご神体を守るべく外からくる不浄なものを遮断する装置としての役割が考えられる。また、逆に神社やご神体の強すぎるパワーを一般の生活者が不用意に浴び続けないようにする役割を果たしている、という説も聞いたことがある。いずれにしても、一般の日常的な空間と神聖な神域を区分する象徴的なシンボルとして造られたものであることはいえそうである。つまり、「ハレ」と「ケ」の境界を区分する装置、とでも表現すれば良いのかもしれない。しかし、さまざまに想像することはできても、本当にそういう目的で製作されたのかどうかはよく分かっていない。蕃塀の役割が明快に解説された文献を私はいまだ知らないのである。
このように蕃塀については、主に愛知県の一部に分布するという局所的な施設であることもあって、あまり詳しいことが分かっていないのが実態だ。こうした中、蕃塀のことを詳しく知ろうと思うならば、とにかく手探りで、愛知県内を中心に地道に神社を参拝し続けて、蕃塀の事例を集めていくしかないだろう。そして、蕃塀マニアは、実際にそうしてみて、これまでに事例を500例以上集めたのである。まだ、現在も探索の途上であるのだが、これから随時紹介していく蕃塀の世界は、その成果の一部であることはいうまでもない。