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気にかけて街を歩くとちょっと楽しい給水塔ですが、中にはレトロなフォルムの給水塔も。
 前回のエントリーでは、日常の中にみる非日常性が給水塔鑑賞のポイント、という話をしました。

 確かに、前回のエントリーで紹介した給水塔のようにドヤ顔の存在感がダダ漏れしているような給水塔に関しては、日常の中にみる非日常性という視点で鑑賞することをお勧めしたいのですが、なかには別の視点で見た方がより楽しめる給水塔もあったりするのです。

 そんなわけで今回は給水塔と建築史、と言うと仰々しいのですが給水塔に関連する歴史的背景も踏まえて眺めることが、またひとつポイントなのです、ということをお伝えしたいと思います。


 写真は東京都世田谷区桜新町に建つ駒沢給水塔。「双子の給水塔」という呼称でも知られています。写真ではちょっと分かりづらいのですが、駒沢給水塔は「双子の給水塔」の呼称の通り2塔並んだ双塔の給水塔です。

 中世ヨーロッパの城砦を思わせるような、またはチェスの駒のひとつルーク(塔)を彷彿とさせるようなアール・デコ調のシルエットは、前回のエントリーで紹介した新興住宅地に建つ給水塔とは全く違った趣きがあります。

 駒沢給水塔は一見して分かるレトロな佇まいが、何やら歴史を感じさせるのですが、それもそのハズで、竣工はなんと1923年(大正12年)。給水塔界の大ベテランですね。
 多摩川の水を渋谷へ届けるために建設された駒沢給水塔ですが、今でも世田谷の一部地域へ配水しているということですので、大ベテランにして現役選手でもあると言えます。駒沢給水塔が竣工したころは、渋谷も渋谷区では無く東京府豊玉郡渋谷町という名前であったということを考えると、歴史の古さを実感しますね。

 また駒沢給水塔は、野方給水塔、大谷口給水塔(老朽化の為すでに解体済)と並んで中島鋭治(なかじまえいじ)博士の設計であるということでも有名です。中島鋭治博士は、明治大正期における日本の近代水道事業のほとんどに携わり、その礎を築いた”近代衛生工学の父”、”近代水道の父”と呼ばれる方です。氏が設計した給水塔はどれもアール・デコ調のデザイン、半世紀以上の時を経ても劣化しない荘厳さがあるなど、鑑賞するものの目を愉しませくれます。

駒沢給水塔02
森に佇む駒沢給水塔



 駒沢給水塔は、明治から大正へ日本の近代化が急速に進むなか、先進的な水道事業のシンボルとして建てられたのではないのかなぁ・・・、なんて、思いを馳せながら見上げてみると、また一層”みちくさ”にも深みがでるのではないでしょうか。

 ということで、駒沢給水塔についてはぜひ実地見学をお勧めしたいのですが、日程に融通が効くようであれば、10月1日に見学されることをお勧めします。というのも10月1日は「都民の日」ということで、世田谷区が駒沢給水塔の敷地を開放してくれるのです。毎年の恒例行事となっており、年々参加者も増えているようですよ。

駒沢給水塔03
1年のうち限られた期間だけ装飾灯のライトアップも行われます



 詳しくは、駒沢給水塔を世田谷の名所にすることをめざして活動されている「駒沢給水塔風景資産保存会(愛称:コマQ)」のサイトでチェックして見てください。以前お話を伺った際に「給水塔は歴史遺産ではなく、風景資産なんです。」と話す会長さんが印象的でしたが、サイトでもその意志は変わらず、風景資産としての駒沢給水塔に関する有益な情報をいろいろ見つけることができるでしょう。





  • あべ りょう

  • http://blog.livedoor.jp/qsui10/

  • 給水塔ってなんだかおもしろいなぁ、と給水塔を見上げたり、写真を撮ったりしています。好きな給水塔は、「六供給水塔(愛知県)」と「駒沢給水塔(東京都)」。絶好の撮影ポジションを探して団地内をウロウロしていると変な顔で見られるので、問い詰められた時のために、スクラップした給水塔ファイルは必携。