前回ご紹介した「旧葛西橋」では、冒頭に「亀戸駅から明治通りを南下し、境川交差点から清洲橋通りを東へ進むと」と記しましたが、今回はその境川交差点にある「境川」バス停をご紹介します。
境川とは、かつてこの地を流れていた川(というより運河、水路)の名ですが、川は震災後の復興事業で昭和5年に埋め立てられ、現在はその痕跡を認めることも困難です。清洲橋通りがほぼかつての川筋にあたり、旧葛西橋付近で荒川(荒川放水路開削以前は中川)から西へ分かれ、扇橋3丁目のクローバー橋西方で小名木川に合流していました。小名木川の裏道的な水路だったせいか、裏川の別名があり、他に砂村川、船入川などとも呼ばれたようです。砂町(旧砂村)付近の新田開発は、江戸時代初期から始められましたが、境川の開削もその頃といわれます。現在の東砂4・5丁目付近にあった中田新田や大塚新田と、その南側の東砂6・7丁目付近にあった砂村新田や八郎右衛門との境界となったことから、境川の名が生じたといいます。既に埋め立てから80年を経ていますが、川の名はバス停の他、交差点名としても、この地にしっかりと根付いています。
境川交差点に立っていると、清洲橋通りと明治通りにはバスが頻繁に通過し、この地が江東区東部のバス路線の要衝となっている様子が感じられますが、昭和40年頃までの地図を開くと、ここが都電の分岐点だったことが分かります。明治通りを南北に通過した38系統から、前回の文末でもご紹介した29系統が、葛西橋へと分岐していました。そして忘れてならないのが、清洲橋通りに面して昭和32年に開設された、都電の車庫の存在です。昭和47年の都電廃止と共に姿を消した車庫ですが、跡地は近年まで都営バスの操車場として使われていました。現在、清洲橋通り南側に見える、回転ずしチェーンの店舗のある場所が、その跡地です。
明治通りを走った都電38系統の前身は、城東電気軌道と呼ばれた民営の路面電車で、昭和17年に当時の東京市により買収されました。前回、葛西橋まで歩いた永井荷風の著作をご紹介しましたが、昭和11年の『放水路』には「その夜は空しく帰路を求めて、城東電車の境川停留所に辿りついた」という記述があり、境川からの電車が家路につく荷風を乗せていた様子を窺い知ることができます。現在は何の変哲もない交差点ですが、そんな昔の風景を思いながらあたりを見渡せば、その街並みもどこかノスタルジックな景観として目に映るようになってきます。
車庫跡地をぼんやり眺めていると、裏手が公園になっていることに気付きます。「もしや」と思い、公園に足を踏み入れると・・・、やはり、ありました。ここにも公衆トイレの目隠し壁に、都電時代の境川車庫の様子が描かれています。前回に続きまたしても、江東区の公衆トイレ恐るべしです。こんなかたちでひっそりと残る都電の残像。・・・私にとっては、これが境川散策のこの上ない収穫になりました。
境川交差点に立っていると、清洲橋通りと明治通りにはバスが頻繁に通過し、この地が江東区東部のバス路線の要衝となっている様子が感じられますが、昭和40年頃までの地図を開くと、ここが都電の分岐点だったことが分かります。明治通りを南北に通過した38系統から、前回の文末でもご紹介した29系統が、葛西橋へと分岐していました。そして忘れてならないのが、清洲橋通りに面して昭和32年に開設された、都電の車庫の存在です。昭和47年の都電廃止と共に姿を消した車庫ですが、跡地は近年まで都営バスの操車場として使われていました。現在、清洲橋通り南側に見える、回転ずしチェーンの店舗のある場所が、その跡地です。
明治通りを走った都電38系統の前身は、城東電気軌道と呼ばれた民営の路面電車で、昭和17年に当時の東京市により買収されました。前回、葛西橋まで歩いた永井荷風の著作をご紹介しましたが、昭和11年の『放水路』には「その夜は空しく帰路を求めて、城東電車の境川停留所に辿りついた」という記述があり、境川からの電車が家路につく荷風を乗せていた様子を窺い知ることができます。現在は何の変哲もない交差点ですが、そんな昔の風景を思いながらあたりを見渡せば、その街並みもどこかノスタルジックな景観として目に映るようになってきます。
車庫跡地をぼんやり眺めていると、裏手が公園になっていることに気付きます。「もしや」と思い、公園に足を踏み入れると・・・、やはり、ありました。ここにも公衆トイレの目隠し壁に、都電時代の境川車庫の様子が描かれています。前回に続きまたしても、江東区の公衆トイレ恐るべしです。こんなかたちでひっそりと残る都電の残像。・・・私にとっては、これが境川散策のこの上ない収穫になりました。
- 岩垣 顕
- 雑司が谷の杜から 東京再発見への誘い
- 1967年生まれ。坂、川、街道、地名、荷風など、様々な切り口で東京の街歩きを楽しむ散歩人。著書に、「歩いて楽しむ江戸東京旧街道めぐり (江戸・東京文庫)」「荷風片手に 東京・市川散歩」「荷風日和下駄読みあるき」など。