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"地球の衛星は月だけでなく、球形のガスタンクも含まれる" という、天動説以来最高に挑戦的な仮説が僕らの頭の中を支配してからというもの、ガスタンクがあると言い伝えられている最寄駅の改札を抜けた途端、大気は真空になり、街中のあらゆるものは宇宙物質の何かに置き換えられることになった。

塀の向こうにあるガスタンクという名の星を眺めながら、僕らはブカブカの宇宙服を着込んだ宇宙世紀の探検家としてここに立っている。

「隊長、はたして着陸できるでしょうか?」
「大丈夫、私を信じてついてきたまえ」
彼女は仰々しく答えた。
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「白線の上がコロニーだから、それ以外は歩かないでね。他のコロニーにジャンプで渡るのはいいよ」
「マンホールは?」
「マンホールは小惑星だから、許可します」

ガスタンクはガス会社の敷地内… ではなく大気圏内にあるため、"HAL" の後継である次世代スーパーコンピューター "NATSU" によって導きだされた角度で慎重に近づかなければ、宇宙船は熱で溶けてしまうだろう。運良く潜入できたとしても、この星の宇宙警備隊に身柄を拘束されてしまうかもしれない。

「隊長、右斜め前方に目標の星を発見しました」
「よし、近づく」
「あれ、隊長、コロニーから足出てます」
「だって何も近くにないじゃない!それより写真ちゃんと撮ってよ」
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「新ルールを決めたわ。ケン・ケン・パ! ならどこ歩いてもよしとする」
「ええ?それは宇宙論理に反します」
「いいのよ、ほら」
「え… ケンケンパ…」
「なにやってんの。恥ずかしくないの?」

宇宙船は大気圏外の軌道上で星を観測し、去っていく。僕らの技術的想像力をもってすれば、地球上から精神だけを宇宙船のアバターにワープさせてテレパシーで会話することだって容易にできる。