
石造の蕃塀には、石工が腕を振るった彫刻が残っているものがある。一定のパターンがあるものが多いが、よく見れば多彩でけっこう楽しい。
清須市上条稲荷社の「蕃塀」
これまでは「蕃塀とは何か?」とか「蕃塀の変遷はどうか?」といった、いわば小難しい話に終始していたように思う。ここで、少し目先を変えて、蕃塀の中で躍動する「生き物?」たちに注目してみよう。

石造蕃塀の中で、特に真ん中に連子窓を持つ蕃塀には、その連子窓の上下に多彩な彫刻を持っているものがある。例えば、清須市上条にある稲荷社の石造連子窓型蕃塀には、蕃塀によく見られる彫刻群がこちらをじっと見ている。

まずは、連子窓の下から見てみよう。この部分には、両側の主柱の他に、間を区切るように設置された束柱(つかばしら)が2本存在する。この2本の束柱で連子窓の下は3つの区画に分けられ、それぞれに彫刻を持つ石板がはめ込まれている。その3つの区画にはそれぞれ1頭ずつ動物が表現されている。左右の両端にある動物は獅子で、正面から見て右側は口を閉じた吽形(うんぎょう)、左側は口を開けた阿形(あぎょう)となっている。イメージとしてはちょうど狛犬と同じ状態といえる。冒頭の写真で見るように、上から飛びかかってきたような躍動感があり、狛犬よりもある意味、絵画的である。

獅子に挟まれた中央に倒立しているのは「虎」である。獅子と比べると、尾がひょろひょろと長く、体には縞模様が刻まれていることから、慣れれば識別は容易だ。顔の表情は獅子とあまり変わらないが、タテガミが無くすっきりとした顔立ちである。他の神社の例もそうなのだが、虎がいるすぐ脇には竹がセットで表現されているのが一般的で、それはお約束のようである。

次に、連子窓の上を見てみよう。この部分には、束柱が全くなく、やたら細長い空間にぐるぐると丸を描いたようなヘンテコな彫刻が展開している。一見、何のことやら訳が分からないが、よく見ると両端付近には「動物」の顔が見えてくる。これは雲海を泳ぐ2匹の龍である。輪を描いた龍の体にはウロコがきちんと描写され、鋭い三爪の脚もそろっている。獅子とは違って、正面から見て右側は口を開けた阿形、左側は口を閉じた吽形となっている。

上条稲荷社の石造連子窓型蕃塀のように、2匹の龍と2頭の獅子を彫刻する事例は非常に多く、虎を描く事例も少なからず存在する。神社にある神聖な施設の一つだから、このような紋様の組合せは、なるほど納得できる。
なお、石造蕃塀は、多くの場合、製作年代や石工の名前などが刻まれており、上条稲荷社の蕃塀は1939年に名古屋市の石工角田六三郎によって製作されたものであることが分かっている。ただ、蕃塀マニアはマニアであるから、もう獅子の顔を見ただけで、これは角田六三郎の作品であると見当がついてしまっている。