今回ご紹介するタイプはまさしくそういった「あれ?」という感覚に訴えかけるもの
 町を歩いていると、ふとした瞬間に「あれ、これってちょっと妙じゃないか?」と意識したり、無意識ではありながらも何かひっかかりを感じる。そんな感覚の根底にあるもののひとつがトマソンなのですが、今回ご紹介するタイプはまさしくそういった「あれ?」という感覚に訴えかけるものです。

 横浜駅近くにあるビルの裏側にあるのが、一面白く塗られた壁。ただ通り過ぎているとその通りの壁なのですが、よく観察してみると、どうも単なる壁ではないようです。

 その理由として
(1)壁ではあるのだけれども何かが、まるでドアか何かがあったかのような縁取りのような痕跡がある。
(2)足元に階段というにはおおげさだけど、まるで入口段差のようなものがある。

 という点から、これは単なる壁ではなくかつて入口があった跡なのではないか、と考える事が出来ます。
 
 そしてこれが、超芸術トマソンで論じられるところの「ヌリカベ」タイプのトマソンです。まるで水木しげる先生が描く妖怪みたいな名前ですが、何かと言いますと以前ご紹介した無用門とはちょっと異なり、壁だしその差異は微妙なんだけど、実は普通の壁ではないんですよ、というあたりが地味だけど面白いと思います。街角の微妙な異物、といった趣があります。


 JR有楽町駅のガード下にも、ヌリカベがあります。駅の新橋側に、東西を繋ぐアーチ型をした通路があるのですが、その中ほどに人が一人通れるかなという程度の穴があります。正確には「かつて穴であったもの」があります。つまりここも塞がれてしまっている、小型のヌリカベがあるのです。


 こう書くと、「無用の長物=トマソン」という式にのっとった清く正しいトマソンだ、と言えるのですが実はここはちょっと違う。反対側から観察してみると、塞がれた空間を物入れとして使っているのか、ごくごく小さな扉がついています。

 逆にこの扉がクセ物で、なんだかとっても小さいのです。どうせ使うのならもっと大きくした方が使いやすいだろうに、とても小さい。実はこれ設計ミスで使いづらいからもう使うのやめちゃったりしてないかい?と問いかけたくなるような出来。これはこれで無用の長物。結構謎です。有楽町に出かけられた際には是非ご覧あれ。



 東京都品川区大崎、百反通りという通り沿いにあるのは、茶色く綺麗に塗られた壁。しかし一部分がちょっと変。
 
 どこかと言いますと、真ん中あたりの足元が少し下がっているのです。幅はちょうどドア1枚分くらい。
 
 つまりこれもおそらくはかつてドアがあったであろう痕跡、ヌリカベ。綺麗にお化粧されているけど、トマソニアンには分かってしまうんですよ、と微笑みかけてしまいたくなるようなかわいいトマソンです、ってそんな事思うのは私だけでしょうか?



 そして今回の白眉は、東京都港区海岸にある建物。
 
 コンクリート素地のまるで箱のような建物なのですが、数箇所がブロック塀で出来ています。そしてそこはまるで窓があったかのようになっているのです。
 
 写真をご覧になった建設業界の方は「あれ?」となるかもしれません。まるで臥梁(がりょう)のような構造なので

 「これって単なる臥梁なんじゃないの?」

と思われる方もいらっしゃるかと思います。
※臥梁(がりょう)とは、
煉瓦造り・ブロック造りなどの組積造(そせきぞう)で、壁の頂部をかためる水平のはり。鉄筋コンクリートで作り、階の継ぎ目、屋根の下などに設ける。(三省堂 大辞林より)

というものです。



 しかし、そもそもこの建物は明らかな鉄筋コンクリート造で、組積造に適用される臥梁は必要ないし、建物正面に回ってみると無用庇と共に大きな開口であったところを一面ブロック塀で塞いでいるのでやはり先ほどの数箇所塞がれていたブロック塀のところも窓であったものを塞いだヌリカベではないか、と見るのが妥当だと思います。

 無機質なコンクリートの塊の中に点在するブロック塀。狙ってこうした訳ではないのだろうけども、これでなんか妙に表情のある建物になってるな、と思います。



 ヌリカベタイプのトマソンは、例えば高所ドアのように「一階より上、変なところにドアがある」といったような明確な定義はし辛いのですが、何でもかんでも定義しておけばいいや、という事でもないし、建物の中の僅かなほつれとして楽しめる無意識なアクセントになってると思います。

 特に築年数が経ったビルにおいて見かける事が出来ると思いますので、散策ついでに見つけてみると面白いですよ。





  • 川浪 祐

  • From Basshead For

  • 1975年生まれ。中学生の頃父親の書棚にあった「超芸術トマソン (ちくま文庫)」を読んでしまい、トマソン探しの人生を送るようになる。元々は音楽やフェスの話などをしていたブログも今ではすっかり路上観察一色。