
薄い朝靄に包まれた長野県飯田市。天竜川の橋を渡ると、緩やかな坂道に続く古い町並みに出遭った。
赤い丸ポストが立つ建物は、旧喜久水酒造の愛宕蔵である。ラッキーなことに、蔵の軒下には「清酒喜久水」の看板が下がっていた。
そのまま坂を登っていくと展望が開け、いつしか靄も晴れて、飯田の町が一望に見渡せる景色となった。坂の途中で、帰りを急ぐ新聞配達のバイクとすれ違う。町はそろそろ目覚めの時刻だ。


国道153号線に出て、JR飯田線のレールに沿って走ると、「トヨタ毛糸編機」と「日立電気洗濯機」の看板が貼られた屋敷が目に飛び込んできた。屋敷は駅のホームのすぐ前にあり、ちょうど電車がやってくるところだ。
電車とのツーショットを狙ってシャッターを押すが、逆光のアングルでうまく撮れない。焦ってマニュアル操作を繰り返すうちに、電車はゆっくりと去っていった。
伊那から高遠に出て、群馬県境に近い佐久穂町を目指した。さすがに5月連休、開墾が始まったばかりの広大な野菜畑の中に続く道でさえ、クルマの列が続いている。すっかり晴れている八ヶ岳を横目に小淵沢、清里、野辺山…と、ようやく抜けた。
佐久穂町は二度目だが、個人的にもけっこう気に入っている町だ。景色の素晴らしさもあるが、町のあちこちに忘れ去られたようなレトロな空間が残っているのがいい。

今回も素敵な商店を見つけた。まるで映画のセットそのもののような酒屋さんだ。正面に貼られた「まるは完全飼料」の看板も良い味を出している。楊枝を加えたフーテンの寅さんが片手を上げて、「よぉっ!」と出てきそうな雰囲気と言ったらいいだろうか。
もう一軒、山が迫った小さな集落で見つけた酒屋さんもなかなかだった。「キングウイスキー」という宝焼酎が出したブランドの看板が下がっており、これは初見の看板だった。

陽が傾きかけた頃、廃校の庭に咲き乱れる遅咲きの桜を見ながら、宿がある上田市に抜けた。水が張られたばかりの田んぼに建つ農家の物置小屋に、さりげなく貼ってあった「昭和三十四年度 火の用心優良の家」という真っ赤な看板がいじらしかった。
風雪に耐え、50年も時の移ろいを見続けてきた生き証人である。指でなぞると、冷んやりとした感触の中に、歴史の重みが伝わってくるようだった。

そのまま坂を登っていくと展望が開け、いつしか靄も晴れて、飯田の町が一望に見渡せる景色となった。坂の途中で、帰りを急ぐ新聞配達のバイクとすれ違う。町はそろそろ目覚めの時刻だ。


国道153号線に出て、JR飯田線のレールに沿って走ると、「トヨタ毛糸編機」と「日立電気洗濯機」の看板が貼られた屋敷が目に飛び込んできた。屋敷は駅のホームのすぐ前にあり、ちょうど電車がやってくるところだ。
電車とのツーショットを狙ってシャッターを押すが、逆光のアングルでうまく撮れない。焦ってマニュアル操作を繰り返すうちに、電車はゆっくりと去っていった。
伊那から高遠に出て、群馬県境に近い佐久穂町を目指した。さすがに5月連休、開墾が始まったばかりの広大な野菜畑の中に続く道でさえ、クルマの列が続いている。すっかり晴れている八ヶ岳を横目に小淵沢、清里、野辺山…と、ようやく抜けた。
佐久穂町は二度目だが、個人的にもけっこう気に入っている町だ。景色の素晴らしさもあるが、町のあちこちに忘れ去られたようなレトロな空間が残っているのがいい。

今回も素敵な商店を見つけた。まるで映画のセットそのもののような酒屋さんだ。正面に貼られた「まるは完全飼料」の看板も良い味を出している。楊枝を加えたフーテンの寅さんが片手を上げて、「よぉっ!」と出てきそうな雰囲気と言ったらいいだろうか。
もう一軒、山が迫った小さな集落で見つけた酒屋さんもなかなかだった。「キングウイスキー」という宝焼酎が出したブランドの看板が下がっており、これは初見の看板だった。

陽が傾きかけた頃、廃校の庭に咲き乱れる遅咲きの桜を見ながら、宿がある上田市に抜けた。水が張られたばかりの田んぼに建つ農家の物置小屋に、さりげなく貼ってあった「昭和三十四年度 火の用心優良の家」という真っ赤な看板がいじらしかった。
風雪に耐え、50年も時の移ろいを見続けてきた生き証人である。指でなぞると、冷んやりとした感触の中に、歴史の重みが伝わってくるようだった。


- つちのこ「琺瑯看板」運営
- 琺瑯看板探険隊が行く
- 1958年名古屋生まれ。“琺瑯看板がある風景”を求めて彷徨う日々を重ねるうちに、「探検」という言葉が一番マッチすることを確信した。“ひっつきむし”をつけながら雑草を掻き分けて廃屋へ、犬に吼えられながら農家の蔵へ、迫ってくる電車の恐怖におののきながら線路脇へ、まさにこれは「探検」としか言いようがないではないか。