看板建築の種類のひとつに「マンサード屋根」というものがあります。なんともカッコいい響きですがフランスの様式がなぜ?
マンサード? なんだかカッコいい響き!
看板建築はまっすぐにファサード(前面)が立ち上がっているのが基本です。洋風を目指してデザインされたので、基本的にファサードは長方形になります。ファサード上部は直角に曲がるのが普通です。そこに装飾が加わることもあります。ところが、正面は銅板葺きなのですが、ファサードは角張っていない物件に出会うことがあります。3階のような部分の屋根はなんとなく山小屋風に折れていて、洒落た雰囲気の建物がみつかることがあります。
実はこれも看板建築の一部です。マンサード屋根という様式によるものです。今回はこのマンサード屋根の話をしたいと思います。
Wikipediaなどによれば、17世紀のフランスにマンサールさんという建築家があって、彼が考案したといわれる屋根なのだそう。屋根裏部屋を作るのに向いているとも書かれています。別の本によればパリの古いアパルトマンにはこの屋根の例が多いとか。
(厳密には日本の看板建築に用いられる場合は、ギャンブレル屋根のほうが正しいようですが、後述の理由によりここではマンサード屋根と表記しています)
要するに17世紀頃のフランスの建築様式がなぜか昭和初期に突如として日本にあらわれたということになります。
実はこれ、看板建築の不思議な歴史によるもので、鑑賞の楽しみのひとつとなっています。
渋谷の道玄坂にある看板建築の並びには、マンサード屋根が並ぶ。マンサード屋根の看板建築はとても目立つ。
2階建て+屋根裏部屋で実質3階建てを実現
看板建築のバイブルといえば藤森照信著の「看板建築」(三省堂)ですが、これに看板建築のオーナーのお爺ちゃんにヒアリングをしていたとき、マンサード屋根のエピソードがでてきます。それによれば建築当時、3階建ての図面で建築申請を出しにいったところ、法律に触れるので却下されたのだが、マンサード屋根の形式にして、3階は屋根裏ということにすれば認可するというヒントを係員がくれたのだそうです。
藤森氏はまさか江戸っ子のお爺ちゃん(建物の持主)からフランスのマンサールの名前がでてくるとは思わず、とてもびっくりしたようです。
どうやら、道路拡張などで土地が狭くなったりしたためどうしても3階建てを建てたいという家主と、法規に従って欲しいがその気持ちはよく分かる行政の担当者と(おそらくその間で苦労する大工さんも)が、協力しあった結果、マンサール屋根という「知恵」が生まれたのでしょう。
(マンサールさんの名前が当時のエピソードから出てきたことにあやかって、看板建築についてはもうマンサード屋根、と表記したいと思います)
さて、上の写真のマンサード屋根な看板建築を見てもらえば、なるほど3階建てっぽくなっていることがわかります。普通の看板建築は、2階建てで、実際より高い見かけを看板により作っているので、違いがよくわかります。
おそらく屋根裏部屋は倉庫にするなり生活スペースにするなりして有効利用されていたのでしょう。長方形の看板建築もいいのですが、これはこれで立派な建物に見えます。
渋谷の道玄坂にある看板建築の並びなどは、典型的なファサードとマンサード屋根の看板建築が並んでいて、楽しい風景です(ただし、もういつ取り壊されてもおかしくない感じです)。
それにしても、フランスのマンサールさんも、こんな形で日本の庶民が参考にするとは思わなかったことでしょうね。
変形型マンサード屋根いくつか。マンサード屋根は貴重なのでみつけたらじっくり鑑賞したいところだ。
変形型マンサード屋根も鑑賞したい
最後の写真は、変化球のマンサード屋根をいくつかご紹介しています。1つは、いわゆる看板建築としては大きすぎるもの。二軒普通に建てたほうが広かったんじゃない?、と建築当時にどんな事情があったのか想像が楽しい建物です。
2つめは、正面はいわゆる看板建築なのに、背後の建物がマンサード屋根というもの。採光の意味もあって建物と90度マンサードの屋根の向きを変えているのかなと思いますが、道路に面したファサードよりも裏の建物の屋根が高いという珍しい物件です。
3つめは、角地に建っている変形型マンサード屋根の看板建築です。屋根はひとつあればいいのに、なぜか3つ屋根が並んでいます。角地にどうやってマンサード屋根で3階部分を作ろうか苦労した当時の雰囲気がしのばれます(ちなみに隣にはもう一軒マンサード屋根が並んでいます)。
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いずれにせよ、マンサード屋根の看板建築は極めて珍しいものです。トップの画像の左側の建物は今や更地になっていますし、撮り直しにいこうと思ったらもうなくなっていた物件もいくつかありました。
もし、みちくさ散歩のときみつけたら、じっくり鑑賞して、撮影もしておくことをオススメします。マンサード屋根が一軒見られたら、その日のみちくさ散歩はラッキーDAY!というくらい価値があると思いますよ。
(撮影地)
渋谷区道玄坂、千代田区神田司町・神田多町・外神田、中央区築地、新宿区高田馬場あたり
- 山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)
- 趣味ホームページ 8th Feb.
- オフィシャルHP financialwisdom
- 1972年生まれ。本業はファイナンシャルプランナー。資産運用とか年金のことを分かりやすく書いたりしゃべるのが仕事。副業はオタク。ゲーム・マンガ・街歩きを同時並行的に好む。所属学会は日本年金学会と東京スリバチ学会。Twitterアカウントは@yam_syun