菊の湯
古い街並みをあちらこちらみちくさしながら最後に銭湯にたどり着く。
今回はちょっと志向を変えてかつて銭湯だった痕跡(今回は建物がそのまま残っている)を見に行きました。
銭湯遺跡はかつて銭湯が営まれていた痕跡、たとえば建物がそのまま残る場合もありますし、煙突だけ、あるいはタイル壁のみ、ペンキ絵の描かれた壁のみが残っていたりというような物件を私が勝手にカテゴリー分けして呼称しているのですが、みちくさ学会ではそのまま使わせていただきます。
ちなみに銭湯は立派な建物でも文化財ではないので廃業すれば多くはすぐに取り壊して用地は駐車場やマンションに転用されてしまいます。
しかし上記のような物件が残っている事も稀にあります。
この銭湯遺跡についてはいずれまとめてご紹介しようと思っております。

今回見に行ったのは埼玉県小川町にある銭湯跡「菊水湯」です。
ここは以前所用で通りかかったおりに偶然発見して以来気になっていたので見に行く事にしたのです。

菊水湯跡は小川町駅から徒歩12分程度、国道から1本入ってすぐの通り沿い。
営業していた当時とほぼ同じ姿で今でも建物が存在しておりました。


道から狭い横道を入っていくと入口になっており、左右に別れて男女入口のあるタイプの銭湯です。
今でも屋号の菊水湯の金色の文字がそのままで、扇形の男湯女湯の表示も残されていました。
なかなか残りにくい銭湯の建物ですが、ここまでそのまま残っているのはなかなか珍しいと思います。

ところで小川町は武蔵の小京都と呼ばれ古い街並みが残っており、伝統工芸の小川和紙でも知られています。
せっかくなので古い街並みを眺めつつ、少しみちくさをしていきます。


大きな木造家屋と大谷石の蔵。
この辺りは大谷石を利用して建てられた蔵も多く見られます。

元は商人宿か商家なのでしょうか、街道沿いにはこんな家も建っています。


こうした家の軒先には琺瑯製の「電話○×△番 小川」「赤十字社会員」といったような表示が取り付けられていたりします。

路地裏を歩いていると立派な商家の裏手にトマソン発見。


大谷石でできた塀にある重厚な「無用門」。
あまりの立派さにトマソン?と思いましたが、確かに開かない構造=いわゆる嵌め殺しになっており無用化されているようでした。

その他にも大小の蔵や出桁造りの商家、古い鰻屋から良さげなホルモン屋までぶらぶらと歩きながら街を楽しみました。

さて、小川町駅から東武線て坂戸駅まで。
今日の最終目的地は坂戸市では唯一の銭湯「越の湯」(埼玉県坂戸市日の出町11-16)に入ります。


同湯は坂戸駅を北口に降りて駅前広場の右手にのびる商店街をしばらく歩き、坂戸駅北口の信号交差点を左折、少し歩いて肉屋の先の路地を左に入ってすぐの右手にあります。
周辺も古い建物が多い路地裏にある1軒家銭湯。

同湯は木造の古い建物、関東には珍しい土管をつなぎ合わせた煙突がワイヤーに引かれて少し曲がって立っています。

入口には紺色に「ゆ」の文字が白抜きされた暖簾が掛かっています。
下駄箱は鍵無しの上に上げる蓋に数字の付いた物が並んでいます。
引き戸を開けて中に入ると女将さんに料金を支払い脱衣場へ入ります。
番台は元々の物を物を置く台にして、入口の方を向いて女将さんが座っています。
入口側壁上には神棚が祀られています。

脱衣場は外壁側の奥半分に造り付けのロッカー。
入口脇と奥に脱衣カゴも積まれています。
男女境壁は鏡になっていて、前には古い体重計が置かれています。
番台脇にドリンクの冷蔵ケースがありました。

ダウンジャケットを着ていたのでかさばるため脱衣カゴを2つ使って入る支度をします。
客は私ひとり。

さて浴室。
ガラス戸を開けて中に入ります。

地方銭湯サイズにて小型ですが、天井は二段式になっているちゃんとした関東型銭湯。
奥壁には痕跡という程度になってしまっていますがペンキ絵があります。


ペンキが縮れてほとんどが剥離してしまっていますが、富士山が描かれています。
今ではうっすらと構図がわかる程度ですが、元はどんな絵だったのか、どんな人が描いたのか興味は尽きません。

その下には浴槽があり、左右に仕切られていない横長なものになっています。

カラン列は両壁側と鏡の無い島カラン1基。
配列は6.5.6で男女境壁側のみにシャワーが付いています。
カラン列は少し新しい物のようで、壁側には楕円形の鏡が貼られています。

小型銭湯にて浴槽は奥行が短く、他に相客も無いので横向きに足を伸ばしてのんびりつかります。
古い木造の湯気抜きの天井から射し込む光を見ながら湯につかりながら眺めていると、地方銭湯によくある秘湯感のようなものを楽しめます。

結局上がって出るまで相客は無し。
貸し切り状態でレトロ銭湯の趣きを味わう事が出来ました。

住所・埼玉県坂戸市日の出町11-16 営業は15:00~22:00

お休みは月曜日





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  • 銭湯wiki

  • 1960年、東京生まれ埼玉育ち。現在は神奈川県藤沢市に在住。小さい頃は風呂屋のペンキ絵が描きかえられるのを心待ちにしていた子供でした。

  • 現在は路地裏散歩と居酒屋徘徊を趣味としており、産業遺産ならぬ生活遺産に興味を抱き銭湯や古建物などを見て巡っております。

  • 座右の銘は遠い温泉より近くの銭湯、かな。