萩間川相良水門
前回の配信のちょうど翌日に震災が起きてしまい、三陸沿岸の防潮水門がことごとく津波で破壊されるのをテレビの画面ごしに見て、大きくへこみました。
どんなに高い防潮堤を築き、頑丈な防潮水門を建てたところで、それを越えて襲来する自然の猛威というものがある。それはどうしようもないことなのだろうか。またもし逆に防潮堤や防潮水門があることによって、人々に油断のような気持ちがあったのだとしたなら・・・いろいろと考え込んでしまいました。しかし、今は「負けるな日本!」な時なので、とにかく水門の姿を見続けてもらうことにします。そして何のために水門があるのか、ちょっとでも考えてもらえたらいいなと思います。
というわけで、今回も駿河湾沿いを走る国道150号線のすぐ脇にある防潮水門を訪ねます。前回の「萩間川相良水門」から、海岸線に沿って北に歩いています。

Ramunegawa_FG2

この区間は前回の大水門にくらべるとぐっと小さな、1扉の水門が続きます。なぜそんな地味なところをわざわざ歩いているのかというと、こんなブッ飛んだ名前の水門があるからです。
Ramunegawa_FG3

なんともふざけた名前の川ですが、本当にあるんです。この名前を最初に見かけたのは、静岡県の防災関係の書類の中でした。これはどうしても現物を見てみたいと思ってはや数年、今回やっとお目にかかれました!
Ramunegawa_FG4

まあ水門自体はそんなに変わったタイプではありません。近所のガキのラクガキの餌食になっている点も含めて、よくある水門のありようです。
Ramunegawa_FG5

プレート見たらわかりますね。ラムネ川水門、本気です。このあたりは海岸から数百メートル行くとすぐに台地の端にかかってしまうような地形で、その数百メートルぐらいを流れる短い川しかありません。われらがラムネ川も、そんなスーパーショートリバーのようです。しかしこの名前の由来は何なのだろう。ラムネみたいな泡立ちのいい流れ、なのか。まさか炭酸水が流れる川ってことはあるまいな。
Ramunegawa_FG6

よく見ると凝った上屋です。個人的には、屋根部の新撰組みたいな装飾は、いらないような気がします。
Ramunegawa_FG7

このまっすぐな階段に惚れました。らせんとか折り返しとか、そういうギミック一切なし。地表から上屋まで、一直線でどーんと駆け上がります。男気あふれる演劇的な階段。
Ramunegawa_FG8

このあたりには陸閘がいっぱいあります。要するに防潮堤に付いたドアのようなものです。これはかなり小規模なやつ。プライベート陸閘か。ところでこの矢印の意味がわかりません。
Ramunegawa_FG9

今回も最後にドボク美術をご覧ください。手描きテイストの濃厚なイラストがかえって心に迫ります。このようにやっちゃいけないこと、起きたらマズい事象をそのまま描く(しかも禁止の記号抜きで)という表現は、一見、素朴でダイレクトな行為に思えるのですが、そうではありません。まずストーリーを伝達した上で、それを解読した者の内部に自発的に禁止の気持ちを発生させるという、高度に心理的、というかコンテクスト依存度の高いものです。たぶん日本人にしか通じませんね。あ、よく読んだら掘削禁止とは言ってないじゃないか。ずいぶん控えめなメッセージだよなあ。


大きな地図で見る




  • 佐藤淳一

  • Das Otterhaus

  • 1963年、宮城県生まれ。水門写真家。最近はカワウソばかり撮っている。高いところと水のそばが得意。近著は「カワウソ」(東京書籍刊)。