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JR東日本の武蔵野線は、山手線のふたまわりほど外側を走る東京郊外の半環状線です。その武蔵野線が荒川を渡るとき、巨大な水門がふたつ、真横に見えるのです。通勤通学で毎日この区間を乗ってらっしゃるみなさんには、すでにおなじみの風景かもしれません。しかしその毎日見える水門に、電車を降りて見に行ってみようなんて、なかなか思わないもんです。いつも電車から見ているけど、わざわざ見に行かないもの。そういう存在こそがまさに「みちくさ」物件ですね。というわけで今回の寄り道水門は、埼玉県朝霞市の「さくらそう水門」です。

水門の名前には普通、川の名前や地名が付けられるものですが、お花の名前とはびっくり。付近に天然記念物のサクラソウの自生地があることにちなんでいます。いや、単にちなんでいるだけではなくて、サクラソウを守るのが機能のひとつという、世にも珍しい水門なのです。などと書くと、洪水が自生地に入り込まないように水門を閉じるのだな、と思われるかもしれませんが、違います。ぜんぜん逆なのでした。サクラソウが育つには、定期的に洪水をかぶる必要があるのだそうです。洪水によって運ばれてくる泥が、実はサクラソウ成育の決め手なのだとか。新しく堤防などの治水施設を作っても、サクラソウの自生地にはそれがなかった頃と同じように洪水をかぶらせたい。そのため洪水時には、水門を閉めるタイミングを調整するのだそうです。なかなか高度なことをやってるんですね。興味のある方は、ぜひこちらをお読みください。

荒川上流河川事務所|事務所の取組み|荒川の主な施設|貯水池
http://www.ktr.mlit.go.jp/arajo/shirou/shisetsu/chosui.htm

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表側(荒川本流側)から見たさくらそう水門。完成当時から「戦隊物の秘密基地」と呼んでいるんですが、誰も賛同してくれないのはなぜなのか。向こう側に見えるのはJR武蔵野線の長い鉄橋。

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裏側(荒川第一調節池側)から見るとこんな感じ。でかでかと水門の名前が書かれています。調節池内はサクラソウに限らずさまざまな植物が生い茂り、広大な原野になっちゃってます。


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  • 佐藤淳一

  • Das Otterhaus

  • 1963年、宮城県生まれ。水門写真家。最近はカワウソばかり撮っている。高いところと水のそばが得意。近著は「カワウソ」(東京書籍刊)。