先般開催されたみちくさ学会の総会。熱気に包まれた会場で提唱した、看板建築「いいかげん!だがそれがいい!」という概念について改めて発表します。
ゴールデンウイークの終わり、5月7日にみちくさ学会の総会が開催されました。みちくさ研究者13名が登壇し、それぞれ10分という限られた持ち時間で研究発表を行い、多くの聴衆がビールを片手に話に聞き入りました。

私の発表では「看板建築のいいかげんさがおもしろい」という新しい概念を提唱させていただきました。これは看板建築について記事をまとめ始めて確信を得た概念ですが、要するに「いいかげん!だがそれがいい!」という感じです。
今回は、総会のレポートついでに、「看板建築はいいかげん!だがそれがいい!」、という考え方を説明いたします。


■和風なのに洋風のふりをする「いいかげん」…だがそれがいい!


看板建築は、関東大震災以降、戦後しばらくのあいだまでにみられる建築様式です。その基本的な定義は「擬洋風」つまり和風なのに洋風のふりをしている、というものです。もう少し細かく言うと、裏側は瓦屋根の和風の建物なのに、ファサード(正面)部分だけ洋風のビルを真似た看板状のものを貼り付け、表通りから見ると、洋風の低層ビル(屋根裏を足して3階建てくらいの高さにする)を装うというものです。

これって「いいかげん」ですよね。実態は和風なのに、正面だけ洋風のファサードにして、洋風のふりをするなんて。

だが、それがいい!

明治から大正にかけて「洋風、かっこいい!」とあこがれていた個人商店の店主たちが、本当に鉄筋コンクリートでビルを建てられないのにもかかわらず「洋風にしたい!」と考えたいい加減さの結晶が看板建築の本質的おもしろさなのです。(看板建築の定義をした藤森教授にいわせれば「粋と見栄」ということになります)
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和風の建物に洋風のバルコニーをつけたり、洋風のつもりが江戸小紋で戸袋をあしらったり……だがそれがいい!

■洋風の様式は「いいかげん」…だがそれがいい!


洋風のあこがれでとりあえず、正面だけ洋風の細工をしたのが看板建築です。そのため、看板建築の正面の様式はそれこそ「いいかげん」です。
個人商店の店主と大工が相談して「こういう格好いいやつ、頼むよ」というように作られていったみたいですから、洋風の柱を模しても、本数も、時代背景に則った様式の統一も気にしません。

実態は表だけの飾りですから、ギリシャ神殿のように実際の重量がかかるわけでもないので、好き勝手にできたんですね。建築の専門家からすれば、笑ってしまうようなデザインがたくさんあったそうです。(おかげで、建築の専門家からは今までほとんど顧みられずにきました)

また、洋風なんですけど雨戸を納める戸袋があったり、洋風にしているつもりが細工は江戸小紋のデザインをあしらっていたりします。まあ、ずいぶんいいかげんなものです。

だが、それがいい!

一般庶民や町の大工さんが「洋風ってこんな感じ?」と思い描いていた形だと考えればむしろ微笑ましく思いますし、むしろ民俗的価値があるように思えてきます。
ディズニーランドのシンデレラ城をみて、様式がどうこうという人は野暮です。あれは「ディズニー映画のファンタジー」世界を形にしたものであって、歴史的な様式を語ることは意味がありません。
看板建築が、アールデコとかゴシックとかルネッサンスとかそんな様式にはまっていないことを、素直に楽しめばいいのです。
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マンサード屋根の洋風な建物も、コンクリートの建物も看板建築グループで語ってしまう……だがそれがいい!

■ちゃんと洋風の建物も看板建築グループにいれてしまう「いいかげん」がいい!


標準的な定義では看板建築のポイントは看板と称したファサードの存在です。しかし、以前紹介したマンサード屋根の建物も、一般には看板建築とまとめてしまいます。
以前紹介したとおり、マンサード屋根は実質的な3階部分を屋根裏部屋とすることで、建築の規制を乗り越えるやりかたでした。そこには純粋な看板状のファサードはありません。むしろ建物のフォルムそのものは洋風アパートです。
それでも、看板建築といってまとめて語ってしまいます。

場合によっては、しっかりと鉄筋コンクリートで作った建物でさえ、「いい看板建築ですね」と堪能してしまいます。
例えば、清澄公園に沿って並ぶ、看板建築的な建物群です。これは震災復興時に建てられ、時代的には看板建築にぴったりですが、実は鉄筋コンクリート作りとみられています(写真のように、裏に回ってみても、木造の和風建築でないことがわかります)。

ここまでくると「とりあえず昔の2階建ての古い洋風っぽい建物はなんでも看板建築といっておけ!」と思うくらいです。いい加減なことこのうえありません。

だが、それがいい。

看板建築鑑賞者の心の広さ(?)が伝わってきます。

■みちくさは、いいかげんなくらいが楽しい


看板建築は、まじめに定義を始めたり、しっかり枠にはめて整理しようとするより、「うーん、いいっすねえ」と楽しむのが一番だと思います。
もともと庶民の建築様式なので、風俗として大きく分類することはできても、その細分化は限りがないからです。


みちくさだもの、いいかげんで、いいじゃない


と、某みつおさんのようなまとめで、今回のコラムは終わりです。

みちくさ散歩はあまりまじめに考えすぎない方が、楽しめると思いますよ。




  • 山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)

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  • 1972年生まれ。本業はファイナンシャルプランナー。資産運用とか年金のことを分かりやすく書いたりしゃべるのが仕事。副業はオタク。ゲーム・マンガ・街歩きを同時並行的に好む。所属学会は日本年金学会と東京スリバチ学会。Twitterアカウントは@yam_syun