子供の頃、親に連れられて泊まった海の家の壁面に小面(能面)が飾られていました。
角度によって表情を変える妖しい笑顔が幼い自分には怖くて怖くて、
そちらのほうを見ることもできず、夜になると能面に見られているようで
寝付くことができなかったのを覚えています。
(ちなみに今では能面、かなり好きです。能を鑑賞すると寝てしまいますが・・)

映画(漫画だったかも?)「八つ墓村」の冒頭、旧家を訪れた主人公を迎える
双子の小さな老婆が並んで浮かべる、この世のものとも思えない微笑も怖かったなあ。

笑う鍾馗さんたち


鬼退治が仕事の鍾馗さんにへらへら笑っていられても困るのですが、
たまに笑う鍾馗さんが見つかります。
smilers
(奈良県橿原市四条町、滋賀県竜王町岡屋、大阪府池田市綾羽)


こうやって並べてみても、どうも腹黒そうな連中に見えて仕方がない・・・

笑顔と言えば。


鍾馗と並ぶ飾り瓦の代表選手、恵比寿・大黒をはじめとする七福神。
こちらは笑顔のオンパレードです。
ajima
(奈良県田原本町味間)

これは布袋さん。天真爛漫。
ouda
(奈良県宇陀市大宇陀)

脳天気な恵比寿・大黒に挟まれて、七福神唯一の武闘派・毘沙門さんは苦虫。
大黒天も元来は憤怒相だったらしいのですが、町で怒った大黒さんを見ることはありません。
imajo
(福井県南越前町今庄)

大黒さんが小判の山に囲まれてうれしそうです。
小判には「百両」「千両」「万両」の文字。何をかいわんや。
ちょっと露骨で品がないんじゃないかな?

いかつい鍾馗さんが外見のイメージとは裏腹に、厄から家を護るという
自衛隊のような専守防衛の役割を与えられているのに対し、
招福という使命を担った七福神が、がめつい商人のように、
どうも生臭い感じになってしまうのは致し方ないことでしょうか。

さて、本来の鍾馗さんは


鍾馗さんは怒っているのがいい。
といっても、鍾馗さんは仁王様や不動明王のように、口をかっと開いて目をつりあげて
全面的に怒りの表情を表しているわけではありません。
筆者が選んだ鍾馗らしい鍾馗さんはこんな子たち。
shokies04
(三重県津市安濃町内多、愛知県蒲郡市三谷町)

shokies05
(京都市北区鞍馬口通、奈良県天理市楢町)

shokies06
(大阪府箕面市粟生間谷東、滋賀県近江八幡市上田町)


口はへの字に結ぶのが基本。
怒っているような、困ったような、微妙な表情がいい。

科挙に失敗(あまりにいかついルックスが災いしたとも言われている)したことに
落胆し、自ら命を絶ったとされる鍾馗さん。
強い守り神でありながら、現代人のような悩みを抱えていたのです。

そういった人間像がこれらの鍾馗さんの姿にも投影されています。
(嘘です)


※前回は「八幡系鍾馗 前編」、今回、あれっ?と思った方すみません。
「八幡系鍾馗 後編」はただいま情報収集中のため、ちょっとお待ちください。

今回登場した鍾馗さん
三重県伊賀市<1263>奈良県橿原市<0985>滋賀県竜王町<0928>大阪府池田市<0635>三重県津市<0229>

愛知県蒲郡市<0245>京都市北区<0822>奈良県天理市<0247>大阪府箕面市<0607>滋賀県近江八幡市<0746>


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※ <>内の数字は筆者HP「鍾馗博物館」内・収蔵室の通し番号です。




  • Kite

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  • 鍾馗博物館

  • 愛知県在住の会社員、1961年生まれ。
    週末のたびに関西方面へ遠征し、民家にひそむ鍾馗さんに望遠レンズを向けてます。
    不審尋問には笑顔とポケット版鍾馗ファイルで対抗するも、追い払われることもしば
    しば。