川が海や他の川に注ぐ河口ももちろんだが、湧水や池から溢れ出した水から川が始まる源流は、特に突き止めて見たい気持ちに駆られる。
川のほとりに佇んだとき、この川はどこからきてどこに行くのだろうか、と誰しも一度は思いを馳せたことがあるのではないだろうか。川が海や他の川に注ぐ河口ももちろんだが、湧水や池から溢れ出した水から川が始まる源流は、特に突き止めて見たい気持ちに駆られる。
川の源といってまず思い浮かぶのは、アマゾンやナイルといった長大な大河を流れる水の最初の一滴、あるいは日本でも信濃川、利根川といった大きな川だろうか。そういった川の源は、急峻な山岳地の絶壁に囲まれた谷筋、あるいは深い森の中にあったりして、そう気軽に行き着くことはできない。一方で、そんなに壮大な規模の川ではなくても、当然ながら源流は存在する。それは都市を流れる中小河川も例外ではない。が、東京などの場合は、かつては存在していた、と言ったほうが正しい場合が大部分かもしれない。

東京の中小河川は、流域の開発や宅地化、緑地や未舗装の土地の減少に伴い、水源の多くを失っている。そのため上流部は暗渠となっていたり、地上に姿を現してからもそこを流れる水の多くを再処理水などに頼っていたりする。神田川の井の頭池、善福寺川の善福寺池など、水源が池のかたちで保全されている川もあるが、それらも池の湧水はすでに涸れ、地下水の汲み上げでなんとか水位を維持している状態だ。

それでも少し郊外に足をのばすと、自然の源流を維持した川もいくつか見られる。それらの中で、東久留米市を流れる「落合川」は、改修工事こそされてはいるものの"最初の一滴"を気軽に見ることのできる貴重な川だ。今回はこの落合川の「川のはじまり」を見てみることにしよう。

落合川は、西武新宿線小平駅の北東2.7km、東久留米市八幡町3丁目を源流とし、西武池袋線東久留米駅の東北東1.1km、東久留米市神宝町1丁目で「黒目川」に合流する、全長全長3.5kmほどの川だ。黒目川の水系は武蔵野台地の北側に太古に「古多摩川」が刻んだ幅の広い谷を流れていて、湧水が多いことで知られている。中でも落合川は流れる水のほとんど全てが湧水によるものだ。現在では源流から合流地点まで全区間に改修工事の手が入っているものの、その各所で湧き出る水や豊かな水量、そこで育まれている緑や生物は今でも目を和ませる。

西武新宿線花小金井駅と西武池袋線東久留米駅を結ぶバスをちょうど中間のあたりで降り、歩くこと5、6分。ごく普通の郊外の住宅地の中を貫く谷の底へ下れば、もうそこが落合川の源流地帯だ。冒頭にあげた写真のように、欄干代わりにガードレールが設けられた小橋のたもとに「一級河川落合川上流端」の看板が立っている。公式にはこの地点が上流端というわけだが、実際には看板よりもさらに上流に、丸太の土止めが施された細い水路が続いている。

というわけで、ほんとうの上流端はどこなのか、探ってみることにしよう。水路に沿って奥へと進んでいく。この日、上流端の水路には水は流れていなかった。


しばらく遡ると土止めの水路は途絶え、そこから先は草の生い茂る窪地となる。さらに奥へと分け入ってみる。


左側からは護岸が迫り、どんどん谷が狭くなっていく。


谷のどん詰まりにたどり着くと、コンクリートの擁壁に設けられた水抜きの穴があった。看板から70m程度西のこの地点が、ほんとうの上流端だといえよう。水抜きの穴から水が出ることがあるとすれば、それは落合川の最初の一滴となるのだろうか。ただ、周囲の草むらの足下は割としっかりとしていて、水が流れたり染み出たりした様子はない。


さて、地形的な上流端はわかったが、現在実際に"最初の一滴"が湧き、川がはじまる地点はどこだろうか。引き返しながら水路を注意深く見ていくと、上流端の看板のある橋のやや手前の地点で、川底にわずかな水が現れた。ほんの少しだが、澄んで綺麗な水だ。


そして、橋のちょうど真下まで来ると、かなりの水が湧き出して下流側へと流れだしていた。


橋の上から下流方向を見ると、すでにしっかりとした流れとなっている。まさに「川のはじまり」だ。橋のたもとでは、湧水が土の隙間からちょろちょろと流れだす様子もしっかりと見られた。ここで湧き出したわずかな水が、川を下って行きやがて海へと行きつくのだと考えると感慨深いものがある。


他にも湿地のようなところや、改修工事で築かれた石垣の隙間などから水が湧き出しており、川はそれらをあつめて、一筋のしっかりとした流れとなって下って行く。


川沿いに下っていくと、あちこちから湧水があるのか、川はあっという間に水量を増して行く。写真の地点は最初の湧水地点から百数十メートルしか進んでいないのだが流量が格段に増していて、流れも早い。


そして、ここは最初の湧水地点からわずか250メートルの地点。もうこのような姿だ。護岸の下でもあちこちから水が湧き出しているのが見える。不必要ともいえるほどの過剰な改修工事によって、落合川最上流部の湧水量は激減したというが、それでもこの水量があるというのは、驚異的だ。じわじわと水の滲み出す"最初の一滴"からわずかな距離であっという間に立派な川となるそのダイナミックな変貌。落合川の源流では、まさに「川がうまれる」過程を目に出来る。



落合川はこの先でも数々の湧水を集めてその流れを豊かにし、黒目川との合流地点では水量は1日3万トンにも達するという。落合川に注ぐ主だった湧水のひとつひとつを辿るのも非常に面白い。ここではとても紹介しきれないが、拙サイト拙サイト「東京の水2009 fragments」に掲載しているので、興味を持たれた方は目を通していただければと思う。

なお、今回掲載した写真は比較的湧水の多い初秋のものだ。季節により水量は変動するので、訪れる際はご注意を。