いきなりなんなんだ!という感じでしょうが
これ、皆同じ鍾馗さんです。

京都代表


写真に掲載したのは、京都市内の丸太町通より北側だけで収集したもの。
京都市全体で、この鍾馗さんは400体以上見つかっていて、
実際にはその倍くらいはあるかもしれません。
基本的に同じポーズですが、表情や細部に微妙な違いがあったり、
サイズ違いも存在していて、細かいバリエーションまでは分類しきれていません。

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(京都市 大宮通鞍馬口下ル)


この鍾馗さんはこれまでにも紹介しています。

第5回  手強い京都
第12回 鍾馗はこうして作られる

あちこちで見られて、京都代表といってよい鍾馗さんですが、
こうした型物鍾馗さんばかり見ていると、ちょっと飽きがきますね。

仕上げの一工夫


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(左は奈良県川西町、中、左は奈良県田原本町)


こちらは奈良県ではごく普通に目にする鍾馗さんです。
ご覧の通り寸分違わぬ姿なので、これも型で作られているのは間違いないですが、
ただ足元の何もないところの模様だけが、それぞれ違っています。
ここでは3体掲載しましたが、他もここの模様はみんな違っていて、指紋みたいです。
型から抜いた後、職人さんがルレットみたいな道具でちゃちゃっとつけたものでしょうね。

筆者は分類おたく(笑)ですが、さすがにこんな些細な違いまでは
気にしていても仕方がないと思います。

手びねりの例


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(上段左から時計回りに 柏原市、大阪市住吉区、同、堺市北区、堺市西区、大阪市平野区 いずれも大阪府)


こちらは大阪府河内地方を中心に分布する鍾馗さんです。
基本的に同じポーズなのは上の2例と同様ですが、
こちらは細部がすべてまちまちで、型から取ったものではありません。

おそらくは一人の職人さん、もしくは同一工房内で
何かを手本にひとつひとつ手作りされたのだと思います。
当然大量生産はできないので、型物とは違って希少性が高い。

希少なこともありますが、見つけてうれしいのはこういう手びねり鍾馗さんで、
土を前に製作に汗する、名もない職人さんの姿を思い浮かべて感慨を覚えます。

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(上段左から時計回りに 御所市、高取町、吉野町、葛城市、吉野町、橿原市 いずれも奈良県)


こちらは奈良盆地の南部、橿原市から御所市にかけてよく見られるローカル鍾馗さんです。
これもひと目で同類と分かる独特の個性を持った一群ですが、
ひとつとして「まったく同じ」ものは見つかっておらず、手びねりと推測されます。
それにしてもでかい顔ですね。

究極の手びねり?


IMGP1708
(奈良県斑鳩町)


世界遺産・法隆寺の門前で目にした鍾馗さんですが、
1000年たってもこれが世界遺産に指定されることはないだろうなぁ。
究極の手作り鍾馗さんですが、あまりにも稚拙な作りで、おそらくは瓦職人ではなく
素人の作品です。あまりにひどすぎてある意味呪術的な魔力を感じます。


町で目にする鍾馗さんは大部分が型物で、手びねり鍾馗さんは古民家の更新と共に年々減っています。
これまで1万体弱の鍾馗さんを見てきましたが、手びねりと思われるものは15%程度にすぎません。
京都、愛知など近年まで鍾馗をあげる風習が残る地域には手びねりは少ないいっぽう、
鍾馗が少ない(=早い時期に鍾馗をあげる風習が廃れた)地域、信州とか、四国、兵庫などは
手びねり鍾馗さんの比率が高いように思われます。

鍾馗さんを見るときに、型物か手びねりか?一歩踏み込んで見極めてみてはいかがでしょう。

今回登場した鍾馗さん
京都市他各地
<0050>
奈良県を中心に分布
<0141>
大阪府の一部地域
<0116>
奈良盆地南部
<0234>
奈良県斑鳩町
<0320>

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※ <>内の数字は筆者HP「鍾馗博物館」内・収蔵室の通し番号です。





  • Kite

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  • 愛知県在住の会社員、1961年生まれ。
    週末のたびに関西方面へ遠征し、民家にひそむ鍾馗さんに望遠レンズを向けてます。
    不審尋問には笑顔とポケット版鍾馗ファイルで対抗するも、追い払われることもしば
    しば。