広尾晃です。livedoorさんでは、野球のブログでもお世話になっていますが、ライフワークは全国のお寺を回ること。「みちくさ学会」では「地味寺」をご紹介します。「地味寺」は地域に息づくかけがえのない存在です。小さなお寺の世界へ、いざ!

奥ゆかしいにも程がある…

残暑きびしい折から、9月は京都を歩こう。京都の「地味寺」の特徴は、小さくてもすごいコンテンツを持っていたりすること。
写真のお寺は、京都市下京区の「西教寺(浄土真宗東本願寺派)」。京都駅の西側、堀川通から西に入った家が建てこんだ一角にある。普通の民家にお寺の山門がついているみたいだが、よく見てほしい、奥(写真左端)に本堂の建物が。一見質素だが、奥にちゃんと本格的な施設を整えている。このあたり実に京都人らしい。これは5年ほど前の撮影。たまたま隣の民家が立て替えをしていたので、隠された(隠している気はないかもしれませんが)本堂を撮ることができた。今はたぶん無理。
隠しているのはそれだけじゃない。この寺は1674年、親鸞聖人の直弟子でもあった鎌倉幕府の御家人、太田頼基の子孫、頼賢によって立てられ、340年近い歴史がある。由緒正しいお寺だから、親鸞聖人の遺骨や真影もある。すごく格式が高い。でも、こんなに地味。奥ゆかしいにもほどがある。

もう少し歩こう。北にてくてく歩くと(あ、タクシーに乗ってもいいですよ)、京都の繁華街、中京区河原町に出る。初秋ともなれば、修学旅行生がぞろぞろみやげ物屋に群がったりする(みやげ物屋には今も木刀、売ってます、なぜかしら買うんですね中学生は)。
この繁華街のどまんなかに寺が。京都観光をした人は前を通っているが、まず気づかない。


飲食店やいろんな店がぎっしり並ぶアーケードに、山門が開けている。道行く人も不思議な子をして見つめている。何か異世界への通路のように見える。この門をくぐると、「立江地蔵」というお地蔵さんがある。


お寺の名前は「善長寺(浄土宗西山禅林寺派)」。この寺も西教寺と同じ時期に創建。お四国さんを巡る人は、徳島県に「立江寺」という札所があるのをご存知だろう。善長寺のお地蔵さんは、その立江寺からもらってきたもの。山門の石碑に「くさがみ」と書かれているが、くさ=天然痘よけにご利益があるとされた。河原町界隈は、何百年も前からにぎわってきたが、立江地蔵さんは、繁華街にする人々にとってお医者さんみたいなものだったのかもしれない。
このあたりには、こうした小さなお寺がたくさんある。裏寺町というお寺だけで構成された町も隣接している。お寺好きにとっては狂おしいような町だ。ここで、不思議なお寺を一つ。


え?繁華街の雑居ビルじゃないの?そう思うかもしれないが、実はこれもお寺。ビルの横手に回ると、壁面に「正覚寺(浄土宗)」。で、1階には山門があって、ご本尊がおわす(左写真の奥の建物は別のお寺)。


雑居ビルにお寺さんが入れていただいているわけではなく、お寺さんが境内をビルにしてテナントを入れたと。ま、昔からお寺の門前には店屋がならんで「門前町」を作っていたから、それを近代化、立体化したものと考えればよいのかもしれない。この寺は1559年創建。戦国時代の真っ最中に建てられた。もちろんそのときは、ビルじゃないですよ。
こういう一見お寺とは見えないお寺も、私としては「地味寺」に含めたい。
来週も引き続き、京都の街を歩く。以後お見知りおきを。


写真と文/広尾晃「地味寺」アーカイブ運営





  • 広尾 晃

  • ふつうのお寺 http://futsu-no-otera.jp/
  • わけあって、今は小さく、目立たないけれど、ずっと法灯を伝えている。そんな小さなお寺を「地味寺」と呼びたい。「地味寺」は、「みすぼらしいちっぽけなお寺」ではなく、誰かの思いに応えるために、時代の風雪に耐えながら生きている、かけがえの無いお寺です。私は全国75,000と言われるお寺を回ることをライフワークにしています。その中から選りすぐりの「地味寺」をご紹介していきます。
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