取材をする店へは、必ず事前に客として入ってみてその店を好きかどうか、居心地がよいか確かめてから申し込む。
当然そのためにはその店を見つけなくてはならないのだけれど、何度前を通っても見落としてしまうだろうというおとなしい構えの店もある。
いい店を見つけるのに有効な方法は他にもあって、それは取材した喫茶店の人があそこは美味しいよとオススメしてくれた店や、私が喫茶店の取材を続けていることを知った知人・友人があそこも結構居心地がよくていいお店だよと教えてくれた店だ。
恵比寿の珈琲家族はそんな、たぶん足で探していても何度も見落としてしまうような佇まいの店で、中学からの友人が教えてくれた店だった。
その友人とは高校も一緒だったのだけれど、珈琲家族の店主・田中さん夫妻の娘さんと私は(つまり私の友人と彼女も)高校の同級生だった。私は学生時代はあまり縁がなくて、数回喋ったことがある程度の、いわゆるただのクラスメイトだったが、彼女たちは自宅が近くて仲良しだった。







珈琲家族は昭和50年にこの場所で創業。
「珈琲家族」という名の店はいくつもあるのだが、これは別に同じ名前のチェーン店があるためで、田中さんの店は完全な個人店。
昭和39年、田中さんが大学生のときにアルバイトをした原宿のレオンという喫茶店がサイフォンでコーヒーを淹れていて、田中さんはいつかサイフォンコーヒーの喫茶店を開きたいと決意した。
開店して35年。「のんびりとやってきたからこんなに長続きしたんじゃないかな」と田中さんは語る。マイペースに、お客さんのことを第一に考えながら営業してきたから、今でも愛される店なのだろう。







居心地よく過ごせるのは同窓生のご両親だということもあるかもしれないが、それだけではないと思う。もちろん初めて店を訪れたときは「私は娘さんの同窓生ですよ」なんて名乗らなかったし、なにより客をもてなしたいという田中さん夫妻の気持ちが、メニューに表れている。
たとえば、コーヒーを頼むと+180円でホットサンドが頼める。
それが写真のセットだ。ホットサンドに、脇にはおまけでタマゴサンド、サラダにのど飴、ハッピーターン、手作りの携帯用ケースに入ったつまようじまでついてくる。
内容はその日によるが、フルーツが一切れついてくることもある。
これが、ゆっくり寛いで店で時間を過ごしていってほしいという気持ちの表れ以外に、何を物語っているか。
この店へ行くたびに、なんとなく気恥ずかしい、それでいて嬉しくて元気になる、そんな気持ちになる。帰り際には決まって、また来れるときに寄ろう、そう思う。
小さくて目立たないけれどとびきり居心地がいい、そういう店がきちんと生き残っていける町で、私たちは暮らしている。







○コーヒー専門店 珈琲家族
渋谷区恵比寿南1-2-8  B1F
03-3710-8124
JR・地下鉄恵比寿駅より徒歩2分
7:00~19:00
日曜・祝日定休
マイルドブレンドコーヒー460円
プレミアムブレンドコーヒー550円
ホットサンド +180円