稲沢稲島八幡社01
稲沢市にある矢合三島社は、本殿のみが鎮座する小社であるが、そういう神社にもそれなりの規模の蕃塀が建っている。

稲沢市矢合三島社の「蕃塀」



 前回は正木八幡社の蕃塀を紹介した。それは、桧皮葺き屋根の風格にあふれる蕃塀で、その規模は木造連子窓型蕃塀158例の中で20位タイに位置づけられる大きなものであった。蕃塀はこのような重厚感に溢れるものばかりではない。ここで紹介する矢合(やわせ)三島社の蕃塀は、その対極にあるものといえる。

み003稲沢矢合三島社2-m

 稲沢市のほぼ中央にある矢合観音は、万病に効く井戸水で有名で、参拝者を集めている。その矢合観音の西隣のややまばらな木立の中に矢合三島社は存在する。神社の正面にまず鳥居があり、すぐその奥には例によって蕃塀がその先を覆い隠している。
 この蕃塀は横幅が約1.8m、高さも約1.8mの大きさで、これまでに見てきたものの中では最も規模が小さい。背の高い人ならば、ひょっとしたら屋根の上からその先を見通すことができかもしれない。柱も2本しか無く(だから柱間は1間しかない)、そもそも柱も角材で細い。だからといって、連子窓はちゃんと塀の真ん中に設置されており、お約束は守られているのだ。

み003稲沢矢合三島社3-m

 次に蕃塀の屋根を見てみよう。矢合三島社の場合も山形の形状をした切妻造(きりづまづくり)である。屋根板の厚さがとても薄くトタン葺きかと思ってしまうくらいの簡素な銅板葺き屋根である。正木八幡社の場合は、せり上がるように湾曲する反り(そり)のある屋根であるが、矢合三島社の場合は真っ直ぐの直線屋根だ。反りのある屋根は造るのにそれなりの手間がかかるが、直線屋根の場合はそれほどではない。

み003稲沢矢合三島社4-m

 矢合三島社の場合、蕃塀の奥にはわずかに灯籠や灯明台があるだけで、すぐに塚上の本殿に至る神社である。拝殿などの他の建物を全く持たないという意味では小さな神社と見ることができる。しかし、そうした神社でも、他の社殿を建てることよりも、蕃塀が優先されて造られたという事実に気付かされる。蕃塀の無い神社ももちろん多く存在するのだが、蕃塀の存在が重視される神社が尾張地方においては一定量認められることが、蕃塀の意味を考える上で一つの手がかりとなるだろう。
 蕃塀を探る旅はまだまだ始まったばかりである。




  • 蕃塀マニア

  • 蕃塀マニア

  • 愛知県出身。某団体職員。2006年に愛知県豊橋市所在の石巻神社の蕃塀を見て、それが「蕃塀(ばんぺい)」という名前のものであることを知り、それから蕃塀の調査を開始した。