装飾にこだわる看板建築は楽しい。怪物も子どもも紋様も装飾も、看板建築をいろどるアクセントになるのだ。みつかるのはたいてい2階部分。ぜひ見上げてみたい。

装飾も看板建築の楽しみのひとつ

看板建築のファサードを鑑賞するシリーズ4bです。
最初は「1:形状」「2:屋号」「3:戸袋」ときて「4:装飾」で終わる予定だったのですが、前回「4a:ニセ柱」という項目を分割してしまったので、4bが誕生してしまうことになりました。まあ、あまり気にせずいきましょう。

さて、今回は「装飾」です。西洋建築といえばゴテゴテといろんな装飾があるものです。ヨーロッパの教会建築では屋上近くにガーゴイルがいるものですし、バットマンの映画などを思い出してみると、アメリカの高層ビルの屋上近くにも過剰な装飾がついているものです。

洋風建築をなんとか模倣しようと試行錯誤していた「擬洋風」が看板建築の醍醐味ですが、装飾にも擬洋風の妙味があるのです。



上は植物を取り入れた紋章風の装飾が建物の角によいアクセントとなっている。全体にも装飾が美しい。下は角にガーゴイルらしき怪物が。ご丁寧に横にも。


動物の顔、植物様の装飾、紋章風の飾りなど多彩な顔ぶれ

今回紹介する装飾は都内で採集された物件ですが、動物の顔、あるいは人間の顔をモチーフとした魔除けのような装飾、植物をデザインに用いたと思われる装飾、西洋の紋章を模したと思われる装飾などがあります。

最近看板建築鑑賞をしていると、上からスプレー等で一塗りされてしまったために細工の詳細が分からないような物件もありますが、それでも戦前から戦後すぐにかけての装飾が未だに残っていることには驚かされます。

しかもこの壁一枚を取っ払えば実質的には木造建築であったり和風の屋根が隠れていると思うと、洋風装飾もおもしろく思えます。最近のマンションにもヘンな装飾は多いですが、当時も施主と大工とが「これ、格好良くね?」的に飾り付けていったものなのでしょう。



長屋風に立ち並ぶ看板建築も2階を見上げてみると装飾におもしろさが。イニシャルを紋章風にあしらった看板は戦前ならかなりモダンだ。右端の店は「大」「文」と漢字屋号だけにおもしろさも増す。


見上げると「装飾」という楽しみが隠れている

こうした看板建築の装飾は、たいていの場合、2階部分あるいは3階に相当するファサードの上部にこしらえています。上端部分も細工に凝っていることが多いです。
こうした装飾は、町を普通に歩いていては見過ごしてしまうこともしばしばです。もし、看板建築の装飾を堪能したいのであれば、「上を見上げる」ことが必要です。

看板建築の楽しみ方はそれぞれですが、一階部分の店構えや、二階相当部分にある屋号や戸袋まで目を留めて「ああいい雰囲気だ」と終わってしまってはもったいないと思います。実はその上にいい感じの細工が残っていることがあります。

看板建築の装飾を堪能するときは、道路の反対側から見てみることをおすすめします。歩道から見上げる角度と違い、道路の向かい側から2階~3階の装飾を見上げてみると、装飾の「顔」と向かい合えたりするからです。

もしカメラで収めたいという人は、ぜひズームの倍率の高いデジカメを用意しておきましょう。この場合も真下から見上げるようにカメラを構えるのではなく、道路の反対側に渡ってズームで寄るとうまく装飾の形状が写し込めます。
(今回の写真素材も、CASIO EX-H20Gというデジカメを使っています。15倍ズームが便利なうえ、GPSデータも保存されるので後日のデータ整理にも便利です)



一軒で装飾を堪能し尽くせる物件。3階部の装飾にはフルーツが、2階上端には細かい飾りに魔除けの人獣とおぼしき意匠、さらにエンジェルらしき子どもの顔まで!和風門構えも楽しい。

2012年も看板建築をよろしく!

今年も多くの建築物が失われた年でした。震災の影響で取り壊しを余儀なくされた建物や、再開発の進展で消えていった建物もたくさんあります(九段下ビルや本郷館は、もったいなさが感じられる物件です)。

一方で、街の看板建築が残り続けているのをみるとほっとします。神田淡路町の看板建築居酒屋「みますや」などは近くを通るたび、元気で営業中なことに嬉しくなります(ランチもおいしいので、淡路町でお昼に困ったらぜひどうぞ)。

看板建築は再開発に弱いところもありますが、一方でしぶとく生き残るところも魅力です。今回の装飾つき看板建築物件も、個人的には明治生命館にも伊勢丹にも三越にも負けない趣きがあると思います。

2012年も、看板建築をネタにコラムを書き続けていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。それではよいお年を!

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さて、次回は「4c:笠木?」をお送りします。まだまだファサードについては語り足りない点があり、とうとう4cまで分岐してしまいました。最初から6項目に分けておけばよかった……。


<今回の撮影地>千代田区神田神保町、台東区東上野、文京区本郷、中央区築地あたり






  • 山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)

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  • 1972年生まれ。本業はファイナンシャルプランナー。資産運用とか年金のことを分かりやすく書いたりしゃべるのが仕事。副業はオタク。ゲーム・マンガ・街歩きを同時並行的に好む。所属学会は日本年金学会と東京スリバチ学会。Twitterアカウントは@yam_syun