あなたは街歩き中にこのようなものを見たことがあるでしょうか。
これは、旧町名さがし業界において「デンリョク」と呼ばれているものです。前回からご紹介しているあなたの知らないデンリョクの世界。2回目の今回は、デンリョクの観察ポイントその2、謎の漢字に迫ります。
[ポイント2]デンリョクとは謎の漢字である。
(1)物事はどら焼きに例えて考えよう。前回ご紹介したポイントはデンリョクの「カタカナ」でした。このカタカナはメインの旧町名を表すものですので、デンリョクはすべてカタカナであるといえます。言うならば、この世の中はカタカナで無いものはデンリョクに非ずなのです。
ではここで、デンリョクを分かりやすくどら焼きに例えてみましょう。上の写真のように、日本に存在するデンリョクは全てがどら焼き型です。餡がカタカナであるならば、その餡を挟む下皮に位置するのが今回ご紹介する謎の「漢字」なのです。デンリョクではカタカナの部分が旧町名ですので、この漢字の部分は旧町名でありません。ではこの漢字は一体何で、何を表し、そして我々に何を訴えかけているのでしょうか。
(2)この漢字は区名では?
そこで我々は、この漢字は「区名」であるという仮説を立てました。この「ヨコデラ」は新宿区横寺町ですし、区名ならば理解がつくだろうという根拠によるものです。(ただし横寺町自体は旧町名ではありません。神楽坂近辺に現存する町名です。)
その仮説を立てるや否や、この様なデンリョクが発見されました。この「ニシハラ」は代々木西原町を指すものであり、その代々木西原町は渋谷区の旧町名です。したがって渋谷区なのに「新宿」だと説明がつかなくなり、我々の仮説は数行でものの見事に論破されてしまいました。
この写真も同様です。この「シロヤマ」の城山町は中野区の旧町名なのにも関わらず「阿佐ヶ谷」と表示されています。阿佐ヶ谷区などという区は東京にはありません。この漢字が区名を指すならば「杉並」となって然るべきなのです。
金杉!?
大塚!!?
果たしてこの漢字は何なのかッッ!!
(3)漢字の正体
実はこの漢字は区名ではなく、電力会社のその旧町名域をかつて管轄した支社名だといわれています。現在の支社名と一部違いがありますが、概ね合致していることが電力会社のホームページにて確認できました。
(4)漢字は全9種類(平成24年1月19日時点)
では、その旧支社名を指すというこの漢字は何種類存在するでしょうか。現在われわれが発見したデンリョクに標記されている漢字は、以下の全9種類です。
「銀座」「新宿」「大塚」「金杉」「小山」「大田」「阿佐ヶ谷」「千住」「江戸川」
これらを現行の東京23区に落とし込むと下表の通りになります。
種類 | 対象区名 |
銀座 | 千代田区、中央区、港区 |
新宿 | 新宿区、渋谷区 |
大塚 | 文京区、台東区、北区 |
金杉 | 台東区、荒川区 |
小山 | 目黒区、品川区 |
大田 | 大田区 |
阿佐ヶ谷 | 中野区、杉並区 |
千住 | 葛飾区 |
江戸川 | 葛飾区 |
銀座と大塚がそれぞれ3区において使用されています。これをどら焼きに例えるなら銀座がこしで、大塚はつぶと解釈できるでしょう。また、ひとつの区につき1種類とは限らず、台東区や葛飾区などのように複数存在するケースもあります。例えば台東区では、谷中等の山の手側が「大塚」、上野や浅草などの下町側が「金杉」というように分かれています。葛飾区はサンプルとなるデンリョクの数が少ないため、今後集中的に研究する必要があります。これをどら焼きに例えるならば、生クリーム入りのどら焼きはこしあん以外あり得ないよねって感じです。
(5)デンリョク未発見地域の「漢字」予測
平成24年1月19日時点で江東区、墨田区、豊島区、板橋区、練馬区、世田谷区、足立区、江戸川区においてデンリョクが確認されていません。これらの区のデンリョクがどの漢字が表示されているか予測してみました。
区名 | 漢字予測 |
江東区 | 江戸川 |
墨田区 | 江戸川 |
豊島区 | 大塚 |
板橋区 | ? |
練馬区 | 阿佐ヶ谷 |
世田谷区 | 大田 |
足立区 | 千住 |
江戸川区 | 江戸川 |
「大田」を大田区が独占しているのは、民主主義の国・日本において考えにくいので、ここは公平を期するために世田谷区を組み込みました。その他としてはほぼ予想通りなのではと思いますが、板橋区だけは正直予測が難しいものがあります。隣接の北区は「大塚」でしたが、これは地理的にとても違和感があり、かといって阿佐ヶ谷でもない。となると、全く未知の漢字が実は存在しているのかもしれません。それならば是非「志村」という漢字のデンリョクが板橋区内にあることを大いに期待したいところです。この気持ちをどら焼きに例えるならば、とらやって感じです。
さあ、これらの予測が果たして正解か否か。その答えの鍵を握るのが、この記事をご覧いただいている読者の皆さんです。特に板橋区民のみなさん、デンリョク調査にご協力を宜しくお願いいたします。
(6)終わりに
あなたの知らないデンリョクの世界。その第2回の今回は謎の漢字に迫りました。さて、これまで「カタカナ」「漢字」とご紹介してきました。「カタカナ」がメインとなる餡、「漢字」はその脇を固める皮。餡、皮と来て最後に必要になるのが、それを完成させるどら焼き職人です。次回は、この「デンリョク」という名のどら焼きという名の和菓子を完成させる要素という名の演出・「省略」に迫ります。もうちっとだけ続くんじゃ。
[今回紹介した旧町名(消滅年/現町名)]
・葛飾区本田若宮町(昭和47年/葛飾区四つ木など)
・大田区小林町(昭和42年/大田区東矢口など)
・新宿区横寺町(※現存町名)
・渋谷区代々木西原町(昭和38年/渋谷区西原など)
・中野区城山町(昭和41年/中野区中野)
・台東区浅草吉野町(昭和41年/台東区今戸など)
・文京区表町(昭和39年/文京区小石川など)
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- 旧町名をさがす会
- 1983年生まれ、福島県出身。東京都内に残る旧町名を探しまわり、(ほぼ)毎日1町名ずつブログにて紹介しています。ネタ切れまで頑張ります。みなさんからの旧町名発見情報や、ちょっとあの旧町名探してこいや的なご依頼等お待ちしています。名前は新宿区十二社(じゅうにそう)から。