今回ご紹介するのは、JR西大井駅に近い「大井原町」バス停です。路線は大井町駅と西大井駅を結ぶ東急バス[井05]系統で、大井町駅西口のロータリーからコンパクトな小型車両が頻繁に発車していきます。車両が小さいということは、狭隘道路を走ることが予想され、私のようなバス好きは乗る前からワクワクしてしまいます。
2_滝王子通り大井町駅を後にしたバスは、池上通りをしばらく南下した後、大井5丁目交差点から滝王子通りに入ります。この滝王子通りが、予想通りの狭隘道路で、バスは対向車と電柱にこすれそうになりながら、運転手の巧みなハンドルさばきで進んでいきます。因みに、「滝王子」という風変わりな通り名は、近くの滝王子稲荷神社に因むようです。やがて通りは商店街となり、正面に新幹線の高架が見えると、間もなくバスは「大井原町」バス停に到着します。

このバス停、実は平成19年3月に「原小学校」から改称されたもので、その際に昭和39年の住居表示施行で消滅した旧町名「大井原町」が採用されたという、珍しいケースとなりました。例え地図上から町名は消えても、旧町名が地域にしっかりと根ざしていたことの証ともいえるでしょう。

バス停名改称の理由は、近くにあった区立原小学校が、区の小中一貫指定校として区立伊藤中学校と合併し、伊藤学園として生まれ変わった事情によります。伊藤学園は、大井原町の二つ手前のバス停にその名がありましたが、これも「伊藤中学校」から改称したバス停名であり、区の教育改革が、[井05]系統の2ヶ所のバス停を改称させるという結果につながりました。

バス停から西大井駅方向に少し歩くと、右手から光学通りが合流してきます。大井町といえばニコンということで、大井町駅から日本光学大井製作所への通りを、戦前の頃から光学通りと呼んだようです。古くは稲毛道と呼ばれた古道で、中原街道へと通じています。
3_光学通りその少し先に新幹線高架下を走る横須賀線の踏切(原踏切)があり、すぐ右手には西大井駅ホームの端が接しています。その踏切を越えると、右手に見える神社の境内のような緑に包まれた一画が、伊藤博文公の墓所となります。先ほどの伊藤学園をはじめ、この付近には伊藤小学校、伊藤幼稚園など、「伊藤」の名が多く見られますが、かつては伊藤公墓所に因んだ大井伊藤町の町名が昭和39年までありました。もともとの地名は谷垂(たにだれ)といい、伊藤公墓所からさらに200メートルほど先にある谷垂公園に、その名がかろうじて残っています。
4_伊藤博文公墓所西大井駅前を北側へ通り抜けると、立会道路が東西に通じています。この通りは、かつての立会川の暗渠で、横須賀線の高架をくぐるガード下には「立会川ガード」の名が記されています。駅前東側に広がる公園を抜けて歩いていくと、立会道路はニコン大井製作所裏手を大井町駅方向へと通じています。川の流れの記憶を留めた桜並木も残り、ところどころに昭和の面影を残す大井の街並みに、私のような散歩者の足は自然と吸い寄せられていきます。
5_立会川ガード