石川県の西部、昔の加賀国は、日本の仏教史上重要な地だ。日本で唯一仏教徒(浄土真宗)が国を支配し、1世紀にわたって“王国”を築いていたのだ。金沢市内には、今も寺院が420か寺もある。そしてその多くが、お寺の形はしているがシンプルで小さな地味寺だ。
写真のお寺は円証寺(真宗大谷派)。金沢市の中央、石引にある。切妻の屋根に桟瓦葺き。簡略な形だ。市内にはこの規模の寺が実に多い。これは、加賀が真宗によって統治されていた時代に、各地区の管理拠点としてこうした小さな寺が設置されたのだ。他の国ならば役所や武家屋敷に当たるものが、中世の加賀では寺だったのだ。
雪国加賀のお寺は、雪に耐えるために這いつくばるように丈が低い。また柱が太い。このお寺は屋根にうっすら草が生えている。今は分厚い雪の布団をかぶっていることだろう。


金沢駅の南3キロほどのところにある堅正寺(真宗大谷派)。このお寺も味がある。本堂(本尊を安置するお堂)と庫裏(住職が執務、生活する建物)が一体化されている。機能的な建物だ。屋根は切り妻。シンプルだ。屋根の上に差し渡されているのは、雪よけ。ここで雪が止まり、水になって滴り落ちるのだ。


こういうお寺は、あまり寺の名を派手にアピールしていない。表札も地元の人々にさえわかればいいので、ごく控えめ。でもこれも好もしい。



さて、これも地味寺。乗敬寺(浄土真宗本願寺派)。金沢駅の東側、浅野川に近い住宅地にある。肩幅の狭い入母屋造りの本堂が建っている。



典型的な加賀の街中の地味寺だが、実は、ある有名人がご住職を務めている。昨年亡くなった米の名優ピーター・フォークの「刑事コロンボ」の声と言えば、昔は小池朝雄さん。小池さんが1985年に亡くなってからは、石田太郎さんが務めておられる。その石田さんのお寺なのだ。
石田さんはジーン・ハックマンの声優も小池朝雄さんから引き継いだ。また、お寺の住職役でよくTVドラマにも出ておられる。すごく板についているなと思ったのだが、本当のご住職だったのだ。
北陸の小さなお寺の住職が、ロサンゼルスのイタリア系の名刑事の声を演じる。これも仏縁だと思う。







  • 広尾 晃

  • ふつうのお寺 http://futsu-no-otera.jp/
  • わけあって、今は小さく、目立たないけれど、ずっと法灯を伝えている。そんな小さなお寺を「地味寺」と呼びたい。「地味寺」は、「みすぼらしいちっぽけなお寺」ではなく、誰かの思いに応えるために、時代の風雪に耐えながら生きている、かけがえの無いお寺です。私は全国75,000と言われるお寺を回ることをライフワークにしています。その中から選りすぐりの「地味寺」をご紹介していきます。
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