昔から海辺の街には銭湯が多いという。
いままでにも色々な海辺の街の風呂にもつかってきたが、今回の銭湯巡りは神奈川県の東京湾岸の都市、横須賀の銭湯をご紹介しようと思う。
横須賀は東京から鉄道アクセスで1時間ほどという近い都市でありながら明治期よりの軍港都市としての生い立ちも反映してか、隣接する同じ港町の横浜とは明らから違う独特の地方色を色濃く感じられる街といえます。

横須賀も他の港町と同様、現在も25軒の銭湯が残り現在も営業を続けています(神奈川県浴場組合ホームページより)。
やはり全てを廻るのは不可能なので、今回歩いた範囲としては横須賀の銭湯が集中している佐野地区を中心に街歩きをしつつ本町ドブ板通り裏手の大黒湯を経由、汐入の亀の湯までを歩きました(もう少し歩きたかったのですが、冬場は陽のある時間が短いのでこの位になってしまいました)。

今回は京浜急行線の県立大学駅で下車、まずは安浦地区の古い建物などを見てから再び駅へ。
駅南西側に抜けて台地へ上がる坂を登ると富士見町、ここの路地裏を抜けて三崎街道へ出る直前を右手に進みます。
街道裏手とは思えない広い道の旧柏木田遊郭跡を抜けて路地裏を進みます。
遊郭跡の裏手にある穴守稲荷社の近くから川を塞いだ暗渠道路沿いを歩き、昔ながらの街並みを抜けて再び三崎街道へ出るとすぐ、道路沿いにあるのが唐破風の瓦屋根の入口が立派な「斗の湯」(神奈川県横須賀市佐野町1-7)。



(訪問時には時間が早く閉まっていましたので開店訪問時の写真を掲載しています)。
以前にもご紹介しましたが入口に立派な福助のタイル絵がある銭湯です。

ここから少し三崎街道を衣笠方面に歩き、再び路地裏へ。
ちょっと入ったところにあるのが「常盤湯」(神奈川県横須賀市佐野町3-8)

板塀にコンクリートの門柱、入口は段を2段上がるようになっていて木造モルタル造りの少し特徴のある佇まいになっています。
いかにも路地裏銭湯といった趣きの常盤湯。
建物の構造は東京銭湯に準じており、多少小型の地方銭湯サイズになっています。
やはり時間が早くまだ開店していませんでしたが、天気のいい日でしたので換気のために開け放たれた窓からは浴室のペンキ絵が見えていました。

ふたたび路地裏をつたって衣笠方面に歩きます。
しばらく行くと、この道沿い右手奥に「松の湯」(神奈川県横須賀市佐野町5-5)があります。

以前にも訪れた事があるので場所はわかっていましたが、この銭湯は道路から細い路地を入って行くので暖簾がかかっていない時はよっぽど注意しないと見落としてしまいます。
開店時にはこのように路地の入口に暖簾が掛けられています。
ところでこの松の湯なんですが、訪れた時は昼過ぎの午後1時20分頃。
入口に手提げを持ったお婆さんが一人立っています。
あれっ?と思いながら写真を撮っていると、なんとご主人が出てきて暖簾を掛けていきました。
神奈川県浴場組合のホームページには15時30分になっていましたが、入口を見ると13時30分よりの営業となっていました。
これは嬉しい誤算、時間は早いですがさっそく入る事にしましょう。

路地を入ると入口はハの字に開いた左右の引き戸。
正面には福助のタイル絵がお出迎えです。
右手が男湯。
中に入ると右手に番台、女湯との境に目隠しのカーテンが掛かっています。
脱衣場はロッカーが少しと脱衣カゴが積まれています。
中へ入ると奥壁側には富士山。
板壁に直接描かれたペンキ絵は神奈川の絵師によるもので、東京銭湯地はひと味違った風景になっています。
カラン列は両壁側と蛇口のみの島カランが1基。
昼下がりの明るい陽の入った浴室でつかる風呂は最高です。
それにしても1時半開店と早いオープン時間ですが、開店早々よりどんどん客がやって来ます。
利用者も高齢の方々も多いので早くから開けて閉めるのも早目(因みに閉店は19時30分)でもいいようだし、この付近には銭湯も多いので他の浴場との差別化という点でも成功していると思われます。
思いがけず昼下がりの入浴をすっかり楽しんでしまいました。

さて、ふたたび三崎街道へ出て、今度は横須賀中央方面に戻ります。
沿道は古い商店が建ち並ぶ地域、懐かしい様な模型店なんかもあります。
また、途中にはスーパー銭湯の佐野天然温泉・湯処のぼり雲なんていうのもあります。
もう少し歩いて先ほどの柏木田遊郭跡のすぐ横、三崎街道の鶴久保小学校前という大きめの交叉点まで戻って左手に入ります。
すぐに見えてくる立派なレトロ銭湯が「当り湯」(神奈川県横須賀市上町4-99)です。

軒付きの漆喰と板張りの塀に囲まれた風格ある銭湯。
東京の大銭湯よりひとまわり小ぶりですが昭和6年築の立派なレトロ銭湯建築です。
暖簾の掛かる入口を入ると正面に品川宿のタイル絵があります。
男湯は右手、中に入るとレトロな空間が広がっています。
ここでも脱衣カゴが現役でした。
浴室は奥壁に山岳地域の大きな木造民家が描かれたペンキ絵。
その下の浴槽は湯口に岩を配した凝った造りになっています。
湯温も高めで良い入り心地です。
夕方にさしかかったこの時間、寒くなってきましたのでゆっくりとあたたまりました。

さて風呂上がり、表に出てまた街並みをゆっくりと見ながら歩きます。
ここから上町の商店が続く街並みは看板建築なども結構残っている地域です。
こんな立派な商店もあります。

お祭り用品を扱うお店らしく、中には神輿や法被、染め抜きの手拭などが展示されていました。

時には表通りから裏通りへ。
車の通りは表の街道に廻ってしまうので、こんな「昭和の夕方の風景」的な景色も見受けられます。

途中で休業中の当世館浴場の建物を見たりして寄り道しながらぶらぶら歩いて横須賀中央駅を越えるとまた路地裏へ。
この界隈ではドブ板通りが有名ですが、さらに1本裏手の道を歩きます。
山が迫った路地裏を歩くと前面がタイル貼りのビル銭湯の「大黒湯」(神奈川県横須賀市本町2-21)があります。

右手に金の文字で「金龍 大黒湯」と屋号が入っています。
暖簾はあまり見かけない大塚製薬のもの。
近所の人々が風呂道具を下げてどんどんやって来ます。
この銭湯はビルの1階にあり、上は集合住宅になっていて横に入口階段があるのですが、ここが面白い。
階段横の壁面が大きくモザイクタイル絵になっている。
図柄は森と湖、それにバレリーナ?
ちょっとかわった図柄です。

もうちょっと歩くと一駅横浜よりの汐入駅。
ここから左に曲がり南に歩くと汐入の商店街。
ここにも昔ながらの玩具店、かなりレトロな蕎麦屋、すでに廃業してしまっているけれど古い看板建築の床屋など街の色々な見どころが並んでいます。
右手に古い佐久間歯科医院の建物を過ぎたら右手の路地へ。
山に沿って廻り込むように住宅地に入って行く路地を歩きます。
左手に地蔵尊のお堂を過ぎると右手の住宅越しに煙突の立つ建物が見えて来ます。
ここが本日の最終銭湯「亀の湯」(神奈川県横須賀市汐入町5-2)です。


入口は道路側ではなく隣接する住宅との小道に面して向いています。
入口上には長方形の明かりとりに菱形の意匠で赤黄緑の色ガラスが嵌めこまれているちょっと凝ったものがあります。
その下には屋号入りの藍染白抜きのオリジナル暖簾がかかり、中の下足スペースに入ると正面奥壁には小品ですが鯉の滝登りのタイル絵があります。
中は番台式、レトロな脱衣場にはロッカーもあるけれど脱衣カゴが積まれていて現役で使われています。
浴室は奥壁には富士山のペンキ絵、ここの絵も神奈川の絵師によるもので都内でよく見かけるペンキ絵とは違った独特の物。
カランは両壁側と鏡の無いシンプルなタイプの島カラン1基。
湯と水の青赤の球の形状の取っ手のついたレトロなカランが並んでいます。
ここも湯は熱め。
夕方で歩いているうちに冷え切った身体が芯からあたたまり心地良い。
なかなかの渋い系レトロ銭湯でした。

さて、暗くなってしまったのでこの先のもう一軒の大黒湯は次回にお預け。
しかし今回は心ゆくまで横須賀銭湯を堪能いたしました。
記事の都合で街並みの写真はあまりご紹介できませんでしたが横須賀は色々見どころが多い街です。
機会があれば一度訪れて街歩き、シメに銭湯というのをやってみてはいかがでしょうか?
横須賀にはまだまだ銭湯があるので、いずれ機会があれば再び取り上げたいと思っています。

今回訪れた銭湯(記載は訪問順)

斗の湯
神奈川県横須賀市佐野町1-7

常盤湯
神奈川県横須賀市佐野町3-8
営業時間 15時30分~22時
定休日 月曜日

松の湯
神奈川県横須賀市佐野町5-5
営業時間 13時30分~19時30分
定休日 不定休

当り湯
神奈川県横須賀市上町4-99

大黒湯
神奈川県横須賀市本町2-21
営業時間 13時30分~19時30分
定休日 月曜日

亀の湯
神奈川県横須賀市汐入町5-2
営業時間 16時~23時
定休日 金曜日



今回のみちくさの航跡


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  • 1960年、東京生まれ埼玉育ち。現在は神奈川県藤沢市に在住。小さい頃は風呂屋のペンキ絵が描きかえられるのを心待ちにしていた子供でした。

  • 現在は路地裏散歩と居酒屋徘徊を趣味としており、産業遺産ならぬ生活遺産に興味を抱き銭湯や古建物などを見て巡っております。

  • 座右の銘は遠い温泉より近くの銭湯、かな。