こんにちは。事務局員の阿部です。先日、みちくさが楽しくなりますよ、という書籍をいくつか紹介するという記事を掲載しました。(こういうやつ「みちくさ学会事務局員がおすすめする、みちくさ入門本10選(2)」、「みちくさ学会事務局員がおすすめする、みちくさ入門本10選(1)」)いつものみちくさ学会記事とちょっと違った方向から「みちくさするキッカケ」を提案しました。
さて、今回はそんな「みちくさするキッカケ」を提案するみちくさ入門書を「トマソン」カテゴリ講師の川浪さんより紹介いただきました。川浪さん、よろしくお願いします!

  ◇  ◇  ◇

 トマソン担当川浪です。私からの推薦図書は、みちくさ学会でトマソンに興味を持った方に捧げる4冊と、小説なんだけどみちくさの楽しさを感じさせる6冊、あわせて10冊です。
 
 他にもご紹介したい本は沢山あるんですが、以下に挙げる本から1冊でも手に取って頂けて、少しでも「お、ちょっと楽しい」となってもらえるととても嬉しいです。それでは、どうぞ。


(1)みちくさ学会でトマソンに興味を持った方にオススメの4冊。

超芸術トマソン (ちくま文庫)
超芸術トマソン (ちくま文庫)
  • 発売元: 筑摩書房
  • レーベル: 筑摩書房
  • スタジオ: 筑摩書房
  • メーカー: 筑摩書房
  • 価格: ¥ 1,155
  • 発売日: 1987/12
  • 売上ランキング: 52635
 言わずと知れた、というか僕が当みちくさ学会で担当してる「トマソン」という概念を世に知らしめた一冊。この本がなければトマソンというものはない、という本です。過去にもみちくさ学会の発表会で紹介させてもらってますし、いくつかの記事で引用もさせてもらっています。
 
 トマソニアンからしたら教典、聖典といった類の本です。トマソンに興味がなくても、日常に存在してる少し変わった物を取り上げるその視点の置き方はとても楽しめると思います。

 前回の企画であべりょうさんが紹介していた「路上観察学入門」にもトマソンの分類についての記述がありますので併せてオススメです。


トマソン大図鑑〈空の巻〉 (ちくま文庫)
トマソン大図鑑〈空の巻〉 (ちくま文庫)
  • 発売元: 筑摩書房
  • レーベル: 筑摩書房
  • スタジオ: 筑摩書房
  • メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1996/12
  • 売上ランキング: 78567


トマソン大図鑑〈無の巻〉 (ちくま文庫)
トマソン大図鑑〈無の巻〉 (ちくま文庫)
  • 発売元: 筑摩書房
  • レーベル: 筑摩書房
  • スタジオ: 筑摩書房
  • メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1996/12
  • 売上ランキング: 82440


2冊ともページの表が写真、裏がその物件に対する報告という形態を取っている、壮大なトマソン図鑑です。

 今現在当みちくさ学会で皆さんからの投稿を募集して吉野忍さんに講評して頂くという企画を行っておりますが、「写真1枚でトマソンを撮る」という作業の参考になる本ですので大変おすすめです。
 ただし、残念ながら絶版になってしまっているようです。筑摩書房さんからの復刊を熱望する書物です。


トマソンの罠 (文春コミックス)
  • 発売元: 文藝春秋
  • レーベル: 文藝春秋
  • スタジオ: 文藝春秋
  • メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1996/06


 とり・みきによる全編シリアスな短編マンガ集です。表題作トマソンの罠には、純粋階段を巡る不思議なストーリーが収められています。作中に登場するトマソンを撮影する人物のモデルは明らかに、以前TBS「王様のブランチ」で毎週書籍を紹介していた筑摩書房の松田哲夫さん、トマソニアン
からは「路上観察学会の」で有名な松田哲夫さんです。こんな地味な情報いるのかしら。

 今回ご紹介した文春文庫版はかろうじて取り扱いがあるようなのですが、文春文庫版の10年後に刊行された大判のチクマ秀版社版は、版元自体が消滅した為絶版です。



(2)小説の世界でみちくさに思いを馳せる5冊

バスジャック (集英社文庫)
バスジャック (集英社文庫)
  • 発売元: 集英社
  • レーベル: 集英社
  • スタジオ: 集英社
  • メーカー: 集英社
  • 価格: ¥ 500
  • 発売日: 2008/11/20
  • 売上ランキング: 55771


 以前みちくさ学会トマソンカテゴリ内、「小説の風景を目の当たりにしてみよう。」でもご紹介した本です。以前と繰り返しとなってしまうのですが、この本の中の一編「二階扉をつけてください」という題名でもう「ビビッ!」と来る方も多いかと思います。おそらく史上初の「高所ドア小説」ですよこれ。

 ありふれた日常に少しひねりを加える事によって意外な世界を作り出す筆者らしい作品です。この作品を読んでから街角で高所ドアタイプのトマソンを見つけたら、それはもう楽しい気分になりますよ。

 余談ですが、筆者の最新作「決起!コロヨシ!!2」も高校生のスポーツ青春小説でありながら、主人公がやってるスポーツは「掃除」です。すごい発想です。前作「コロヨシ!!」が文庫で出てますので是非お試しを。

ヴァーチャル・ライト (角川文庫)
ヴァーチャル・ライト (角川文庫)
  • 発売元: 角川書店
  • レーベル: 角川書店
  • スタジオ: 角川書店
  • メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1999/01
  • 売上ランキング: 475547

 「ニューロマンサー」で有名なサイバーパンクSF小説の旗手。映画「ブレードランナー」の原作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」の作者、フィリップ・K・ディックと並ぶ大家ですね。

 ・・・って全然みちくさに関係なさそうですが、実はこの作品にはトマソンの研究者、山崎さんという人が出てきます。作品中でどういう関わりを見せるか、というのは割愛しますがアメリカのSF作家の作中にトマソンという単語が出てくるのは実に爽快ですね。
 
 そしてこの本も、絶版です。
さらば雑司ヶ谷
さらば雑司ヶ谷
  • 発売元: 新潮社
  • レーベル: 新潮社
  • スタジオ: 新潮社
  • メーカー: 新潮社
  • 価格: ¥ 1,365
  • 発売日: 2009/08/22
  • 売上ランキング: 160239

 強烈な暴力描写と性描写があるので万人にオススメし辛いのですが、題名からしてみちくさ的には何かこう、惹きつけられませんか?雑司ヶ谷ですよ舞台が。東京都民だって「えーっと、どこだっけ?」と一瞬逡巡しそうな池袋の隣町、雑司ヶ谷が舞台でエロスとヴァイオレンス描写があるという、書いてるこちらも混乱してきそうな小説です。

 大変に勢いのある小説なのですが、「雑司ヶ谷」という単語と暴力描写のミスマッチ感が見事です。

プリンセス・トヨトミ (文春文庫)
プリンセス・トヨトミ (文春文庫)
  • 発売元: 文藝春秋
  • レーベル: 文藝春秋
  • スタジオ: 文藝春秋
  • メーカー: 文藝春秋
  • 価格: ¥ 750
  • 発売日: 2011/04/08
  • 発売日: 2011/04/08
  • 売上ランキング: 8297

 昨年映画にもなった作品ですが、題名から分かる通り舞台は大阪です。大阪下町の商店街を舞台に、東京から来た役人が大阪に眠る壮大な秘密を掘り返していく話というのが主題でありながらも、みちくさ的には作中の下町描写や、町並みを歩いていくと不思議なビルが出てきたり・・・という所が楽しいです。

 巻末にあるエッセイも、大阪という町について書かれていてみちくさ学会を読んでくれる方にはオススメです。

麻雀放浪記(一) 青春編 (角川文庫)
麻雀放浪記(一) 青春編 (角川文庫)
  • 発売元: 角川書店
  • レーベル: 角川書店
  • スタジオ: 角川書店
  • メーカー: 角川書店
  • 価格: ¥ 580
  • 発売日: 1979/09
  • 売上ランキング: 16236

 こちらも以前、真田広之主演で映画化された作品です。

 とても有名な小説なのですが、戦後の混乱に揺れる東京の町を舞台にしているので、当時の町並みや風俗が書かれていて、今の東京と比べながら読むととても面白いです。特に上野。街角で博打に興じたり、夜露を凌いで生存のために奮闘していたり、という今の上野からはちょっと考えられない描写もさる事ながら、作中に出る重要な人物、「ドサ健」が「野上の健」と名乗っているのです。野上とはもちろん、上野の事です。


鉄塔 武蔵野線 (ソフトバンク文庫 キ 1-1)
鉄塔 武蔵野線 (ソフトバンク文庫 キ 1-1)
  • 発売元: ソフトバンククリエイティブ
  • レーベル: ソフトバンククリエイティブ
  • スタジオ: ソフトバンククリエイティブ
  • メーカー: ソフトバンククリエイティブ
  • 価格: ¥ 872
  • 発売日: 2007/09/21
  • 売上ランキング: 73340

 その筋では非常に有名な作品なのですが、唯一無二の鉄塔小説です。

 「鉄塔小説」と言われてもピンと来ないと思います。だってこの本しかないのですから。

 小学生が近所にある鉄塔を辿っていく、という冒険をするお話なのですが、写真の点数がものすごい事になっています。小説としてはありえない、500枚以上の写真が作中に登場します。

 とてもみちくさなんて言えた代物じゃない道のりなのですが、ふとした事から興味を持ってずんずんと進んでいく少年たちのように私たちも興味を持ったものには邁進していきたいものだ、と思って最後にこの作品をご紹介しました。面白いですよ!






  • 川浪 祐

  • From Basshead For

  • 1975年生まれ。中学生の頃父親の書棚にあった「超芸術トマソン (ちくま文庫)」を読んでしまい、トマソン探しの人生を送るようになる。元々は音楽やフェスの話などをしていたブログも今ではすっかり路上観察一色。