烏山寺町のバス停
今回ご紹介するのは、世田谷区の千歳烏山駅に近い、通称「烏山寺町」を巡る、関東バスの[烏01]系統です。いつものように特定のバス停のみをご紹介するのではなく、路線そのものにスポットを当て、小さな路線バスの旅を楽しんでみたいと思います。
そもそも東京には「寺町」と呼ばれる街並みがいくつかあり、多くは都心部の寺院が集団移転してきたことで形成された歴史がありますが、概ね時期的には江戸城拡張工事や大規模な火災に伴う江戸期の集団移転と、関東大震災後の集団移転に分けられるのではないでしょうか。四谷や三田の寺町は前者であり、練馬や世田谷など、比較的郊外の寺町は後者によるものが多いようです。中でも烏山の寺町はその規模も大きく、寺院数も26を数え、「小京都」といえば少々大袈裟ですが、それに近い景観を今も守り抜いている街並みは、私のような散歩者を強く惹きつけて止みません。
2_路線図と寺町の案内図

では、早速烏山寺町を訪ねてみましょう。京王線千歳烏山駅から商店街をしばらく歩くと、東西に走る旧甲州街道に出ますが、その下り車線側にある千歳烏山駅前バス停が、寺町を巡る[烏01]系統の起点になります。実はつい最近まで、このバス停は単に「烏山」と名乗り、他路線の駅前バス停とは一線を画していましたが、現在は駅前の名に統一されてしまいました。しばらく待つと、一般の路線よりやや小振りな車両がやってきます。行き先は「久我山病院」となっていますが、この路線は時計回りの循環系統であり、反対車線側にはバス停は無く、バスは寺町を一巡して再びここへ戻ってきます。

駅前を発車したバスは、すぐに寺町通りに入ります。甲州街道を横切り、正面に中央道の高架が見えると、その手前に「寺院通1番」バス停があります。この先がいよいよ寺町ですが、この先「1番」から「5番」までの番号制のバス停となっているところも、この路線の面白さのひとつです。左に妙高寺を見ながら進むと、中央道をくぐった先が「寺院通2番」です。左右の車窓には寺院の塀が延々と続き、まさに寺町の名にふさわしい景観が続きます。
3_寺町通りを走るバス

少し途中下車もしてみましょう。「寺院通3番」バス停先の左手には、「不許蕎麦」と刻まれた碑のある称往院があります。要するに「蕎麦禁止」ということですが、この寺が浅草にあった頃、信州出身の庵主のふるまう蕎麦が有名になり、それが僧本来の修行の妨げになるとして、住職が蕎麦を禁じたというエピソードがあるそうです。また、「寺院通4番」バス停の左手には、寺町の中でもひときわ大きな境内を誇る妙壽寺があります。ここには明治37年築という鍋島侯爵家の木造住宅が昭和2年に麻布から移築され、現在も客殿として使用されています。明治期の華族の生活様式を伝える貴重な建築遺産であり、その意匠や雰囲気を楽しみに寺を訪れる人も多いようです。最後に、「寺院通5番」バス停に近い高源院を訪ねます。ここはなんといっても鴨池が見どころでしょう。秋には文字通り多くのカモが飛来するというこの池は、今も涸れることのない湧水で満たされ、その水面は夏になると一面の蓮の葉で埋め尽くされるなど、四季折々の表情を静かに見せてくれています。
4_妙壽寺客殿

「寺院通5番」バス停で寺町を抜けたバスは、久我山病院から烏山都営住宅を経ると、寺町東側を南下して千歳烏山駅に戻ります。さほどの時間をかけることもなく、寺町散策の小さな路線バスの旅を楽しんだひと時でした。ご興味のある方は、ぜひ世田谷の「小京都」へお出掛け下さい。
5_高源院鴨池