伊豆半島の南に位置する下田市。
ここは古い港町であり、幕末の日本開国に立ち会った歴史ある土地として知られています。
今回はこの下田を訪れ、街歩きを楽しみつつ唯一残る銭湯「昭和湯」をご紹介したいと思います。
下田は東京から熱海経由で約3時間ほど。
伊豆急行線の下田駅を降りて北の海方面に歩いて行くと、ここが下田の港を中心とする旧市街地です。
もともと海運で栄えた港町だった下田は現在の駅より海寄りに栄えていたため、旧市街地は国道136号線を渡った北側に広がっています。
現在は下田市一丁目、二丁目というふうにいきなり丁目の付く住所になっていますが、元々は大工町、紺屋町、須崎町、同心町などという旧町名があり、現在でも現住所表示とは別にその町名を示す石柱が街角に設置されています。



さて、それでは街を歩いてみましょう。

駅前の国道を渡るとすぐにあるのが旧「南豆製氷所」の建物です。
地元産の伊豆石を使用した建築物は大正12年に造られた2004年に廃業するまで使用されていた下田の港町を支えた近代産業遺産として国の有形登録文化財の指定を受けている建物です。
廃業後には好立地であったために取り壊しの計画もありましたが地元の有志を中心に保存運動が巻き起こり、文化財指定、保存の流れになり、一時は外観ライトアップ展示などもおこなわれていました。
しかし現在訪れてみると、昨年の地震の影響なのかかなり建物も傷んでしまっているようでした。
再び取り壊し計画が持ち上がり、現在保存を希望する有志が色々な運動を行っているということですが、資金面を始め色々な問題を抱えているということでした。


現在はこのように足場が掛けられていて、横から見ると地震の影響なのか崩れかかっている個所もあるように見受けられました。
私も下田に行くたびに何度も眺めている建物なので残ってもらいたいのですが、古い建物を残す、ということのたいへんさが感じられる物件です。

さて、旧市街地を歩いて行きます。
街並みはこんな感じ。


ここは古い廻船問屋を営んでいた旧家の建物。
漆喰の白さになまこ壁のコントラストが美しい。
他にも江戸末期の建物の喫茶店や旅館、明治時代の建物の酒屋など、かなりの見どころがあり、この旧市街地にギュッと凝縮したようになっていて街歩きを楽しめます。
そしてその古い建物のほとんどが現在でも使われていて、実際に下田の人々が生活しているというのもこの街並みの魅力でもあります。


下田の古い建物の多くが前側などの見える位置は漆喰塗りでなまこ壁、建物横や下部には地元産の伊豆石を使用した造りになっている事が多く、この伊豆石の特徴ともいえるストライプ模様と漆喰なまこ壁のコントラストはなかなか美しい観賞点となっています。

もう少し歩くと平滑川という小川沿いに古い建物が建ち並ぶ地域に出ます。
ここきもともとは川端町という花街でした。


この道は幕末、米国が日米和親条約締結の後、下田に入港したペリー提督の使節団が下田の地に上陸、日米和親条約附則の細目である「下田条約」を取り決めるためにその交渉の場になった港に近い了仙寺へ向かうために通った道として、現在では「ペリーロード」と呼ばれて親しまれているところです。

それに因んでかマンホール蓋も黒船の図柄。


この川に沿って情緒ある古い花街の建物が残されており、現在でも喫茶店や飲食店などとして活用されていて見ることが出来ます。
そのなかの一軒、風待茶房という店の軒先には「鍾馗様」が載せられています。
この鍾馗様、何年か前までは2体載っていたのですが、現在では1体のみになってしまいました。


さて、そろそろ目的の銭湯「昭和湯」に入ることにします。
昭和湯は現在下田では唯一の銭湯。
地方サイズの小柄な銭湯ですが地元客が三々五々訪れて利用していく地元で愛されているお風呂屋さんです。


そしてここの魅力はなんといってもお湯、天然温泉を供する温泉銭湯なのです。
さて、さっそく入ってみることにしましょう。
「昭和湯」藍染のオリジナル暖簾をくぐって下足箱に靴を入れて脱衣場に。
同湯は番台方式ですが、女性利用者に配慮してかご主人は男湯のベンチに腰掛けて週刊誌を読んでおられます。
外壁側にロッカーがあり、あとは丸籠が積まれています。

浴室に入ると奥壁側に深めの温泉浴槽があり2基のジェットがあります。
1m位ある浴槽の深さからか途中に段が設けられています。
カランは左右両壁に5基づつでシャワーは無し。島カランはありません。
小型の地方銭湯サイズですがまだ明るい時間帯ということもあり、明るい採光の良い浴室です。
浴室はとてもきれいに保たれており気持ちが良い。
鏡より上のタイル壁と天井は近年リニューアルされてようで新しくなっています。
湯温は熱めですが寒い日だからか気持ちよく入り続ける事ができます。
お湯は無色無味無臭ですごく温まり、途中から額に汗が出てきます。
さすが温泉、温まった身体がかなり長く持続していました。

因みに昭和湯の温泉は蓮台寺温泉からの引き湯なのだそうです。
銭湯料金で温泉温浴が楽しめる優れた銭湯なのでした。
しかも営業時間が長いので旅人としての利用もかなりし易い。
(同湯横に4台分の駐車場も確保されており、利用者は番台に断れば使用できるようです)

昭和湯
泉質は単純温泉(弱アルカリ性低張性高温泉)、泉温55℃。
住所・静岡県下田市三丁目5-11
営業時間:9:00~21:00 お休みは10、25日



さて、今回はここで終わりません。
暗くなりつつある下田の旧市街で、もう一軒歴史的建物を訪問する事にしました。
それがここ「土佐屋」です。


この建物は昭和湯にも近いペリーロードにある安政元年築の建築物。
なんでも元々はそれより前からやっている廻船問屋だったそうで、その頃に訪れた吉田松陰が黒船に乗り込み渡米を企てようとした際に、兄にしたためた手紙を預けたのがこの土佐屋だということです。
しかし安政の大地震による津波で土佐屋も流失してしまい、ついに手紙は兄に渡らなかったんだとか。
そしてその地震の後に出来たのが現在ある土佐屋の建物なのだそうです。
そして150年以上経っているこの建物、現在はソウルBARとして営業されているのでした。

下田の旧市街地の街並みは、昔のままの建物を現在も大事に使っている生きた歴史の街なのです。
そんな街並みの中にみちくさ的要素もかなり凝縮されていて楽しめる街歩きでした。
ちょっと遠いけれど歴史を体感できる街並み散歩、シメに昭和湯は私的にはなかなかのおすすめなのであります。





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  • 1960年、東京生まれ埼玉育ち。現在は神奈川県藤沢市に在住。小さい頃は風呂屋のペンキ絵が描きかえられるのを心待ちにしていた子供でした。

  • 現在は路地裏散歩と居酒屋徘徊を趣味としており、産業遺産ならぬ生活遺産に興味を抱き銭湯や古建物などを見て巡っております。

  • 座右の銘は遠い温泉より近くの銭湯、かな。