名古屋、東京に続いての下町ホーローウォーキング第三弾“大阪編”は、シャッターが降りた閑散としたアーケードをくぐりぬけ、西成地区を南海本線のガードに沿って歩くことから始まった。
放射冷却で気温が下がった早朝は、人の姿も少ないようだ。“日給10000円”というハリガミをフロントガラスに貼って駐車している軽ワゴンや、激安の自販機が並ぶ通りを足早に歩く。
萩ノ茶屋駅から南海本線に乗り、沢ノ町駅で下車。今日のスタートはここから住吉区の看板を訪ね、更に、大阪市内の地下鉄やバスが週末乗り放題のエンジョイエコカード(600円)を使っての町歩きにつなげる。

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住吉大社の周辺には、鍾馗さんが屋根を守る古い民家や木製の牛乳箱がある路地があって、下町の雰囲気を濃厚に残している。いわくありげな丸窓がついた長屋は元遊郭跡だろうか。仁丹の町名看板や戦前の自転車看板は、そんな町角にひっそりと隠れていた。
コンビニやマンションの陰に身を潜めるように、琺瑯看板たちが長い年月を過ごしてきたかと思うと、実に感慨深い。大都市のホーロー探検は、現在と過去のそんなギャップを比較する楽しさも、僕の探索意欲をあおるのである。
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住吉からはエンジョイエコカードを駆使しての町歩きとなった。市バスや地下鉄をうまく使うことで機動力が格段とアップする。田辺、今里、平野、京橋、千林…と最寄の駅から徒歩に切り替えてお宝たちを探す町歩きは、ワクワクするような心の躍動を覚えずにはいられない。
クルマがクラクションを鳴らそうが、堂々と道の真ん中を歩いていくいかにも“大阪のおばちゃん風”の二人連れ。昼間から酔っているのか、ぶつぶつと独り言を繰り返す自転車に乗ったオヤジ。ネコがのんびりと昼寝している路地。人がすれ違えないような路地の奥にあった小さな祠。
雑多かつ、コテコテの大阪を象徴するディープな真骨頂が下町にはある。「町内の申合に依り寄附押賣一切御断」と書かれた小さな看板を見つけたときには、思わずにんまりとした。
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こうした看板をいまだに玄関脇に貼っている家があること自体、素晴らしい。仁丹の町名看板も、平野川のほとりの重油の臭いが漂う町工場の脇の家に貼られていたし、ぺんぺん草が屋根に生えている棟続きの家の壁には「ムヒ」の看板があった。
ホーローウォーキングの最後は千林商店街での仁丹看板探索となったが、あいにく見つけ出すことができずに空振りで終わった。
この日の歩数計の表示は31000歩。文字通り足が棒になるまで歩いた大阪だったが、青春18切符で乗る帰路の快速電車には、満ち足りた気分でボックスシートの人になることができた。
(取材2012.3.11)

※今回出遭った琺瑯看板たち
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  • つちのこ
  • 琺瑯看板探険隊が行く
  • 1958年名古屋生まれ。“琺瑯看板がある風景”を求めて彷徨う日々を重ねるうちに、「探検」という言葉が一番マッチすることを確信した。“ひっつきむし”をつけながら雑草を掻き分けて廃屋へ、犬に吠えられながら農家の蔵へ、迫ってくる電車の恐怖におののきながら線路脇へ、まさにこれは「探検」としか言いようがないではないか。