看板建築のファサードをしっかり向き合うシリーズの最終回は「笠石・笠木」です。ファサードの一番てっぺんをみると「洋風っぽく」する工夫がそこにはあります。

■ファサードの一番上は、なぜか「厚み」がある

看板建築のファサードをじーっとよく見てみようというシリーズも今回でひとまず最終回です(本業が超多忙で間があいてしまいすみません。ネタはたくさんあるんですが!)。

今回は、ファサード(前面)の装飾のうち、一番てっぺんに目を向けてみます。
看板建築の多くは、後ろは和風の建物で、斜めからみると、ファサードだけ板一枚か、ブロックひとつくらいの厚みの壁があるにすぎないのが特徴です。

しかし、板一枚といっても、「洋風っぽく」いろいろ工夫しているのが看板建築のおもしろさです。たとえば、下の写真を見てください。いくつかの看板建築のてっぺん部分に着目してみると、どれも「てっぺん部分だけ厚くしている」ということが分かります。
建物によっては、板を二枚貼り合わせただけなのでは、というケースもあるほどです(タイトル画像の物件が特徴的!)。これは何か建物の強度に影響するわけではありませんので、デザイン的に「あえて、板2枚」の厚さにしたものと考えられます。

しかし、なんでまた、「板2枚の厚さ」に仕立て上げたのでしょうか?
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■笠石(ないし笠木)が洋風っぽさのカギ?

洋風の建物の上端部をいくつか集めてみたのが、次の写真です。それぞれ上端部分のアップも合わせて紹介しています。上端部分の「厚み」は、どこかしら看板建築のファサードてっぺん部分と似ていることが分かります。

これは建築用語的には笠石とか笠木と呼ばれるものですが、建物の上部について厚みを持たせたパーツが洋風の建築にはよく見受けられます。水切りの目的でつけられるものもありますが、装飾的な意味合いもあります。

日本においては、明治以降、急速に洋風建築が建ち始めたわけですが、多くの日本人はこうした建築をみて、「おお、これがハイカラな建物なのか」と驚き、またあこがれたに違いありません。

そのとき、「瓦葺きの三角屋根ではなく、四角の屋根が洋風っぽい」「一番てっぺんはちょこっと厚みがあったほうが(よく分からないけど)洋風っぽい」というイメージがあったのではないでしょうか。

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■ファサードの加工は看板建築鑑賞の楽しみ

もちろん、ただの「板1枚」といったデザインの看板建築もたくさんあります。予算が足りなかった、あるいはそこまでこだわりがなかった人は「建物の正面を板1枚のように四角くすれば洋風っぽいやね」という感じで建てたのでしょう。

しかし、かなり多くの看板建築が、「てっぺんだけ厚めに」ファサードを加工しています。これは注目すべきところだと思います(といっても、看板建築マニア以外は誰も注目してこなかったわけですが)。

ここまで、ファサードのいろいろな加工を、手探りで楽しんできた大正~昭和初期の雰囲気を楽しんできました。「ニセ柱」をつけて洋風っぽくしたかと思えば、「筆文字屋号」を誇らしげに掲げたりしています。銅板葺きで洋風耐火建築を装っているのに、なぜか江戸小紋を彫り込んだりしています。文字通り「和洋折衷」です。

看板建築の和洋折衷のごっちゃ煮の装いは、正統な建築様式ではありません。しかし看板建築ならではの楽しみです。

庶民文化としての看板建築は、重厚な煉瓦建築の産業文化遺産などと比べて、決して劣るものではありません。ぜひ看板建築のおもしろさを散歩がてら楽しんでみてください。

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  • 山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)

  • 趣味ホームページ 8th Feb.

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  • 1972年生まれ。本業はファイナンシャルプランナー。資産運用とか年金のことを分かりやすく書いたりしゃべるのが仕事。副業はオタク。ゲーム・マンガ・街歩きを同時並行的に好む。所属学会は日本年金学会と東京スリバチ学会。Twitterアカウントは@yam_syun