前回は名古屋銭湯のうち、和風の特徴的なものをご紹介しました。
今回は洋風な建築意匠をとり入れた銭湯をご紹介したいと思います。
銭湯の建物は地域や年代によって様々、主に関東近郊でみられるような寺社建築風の銭湯や京都や飛騨高山などの町屋風な銭湯などはビル型銭湯が増えた現在でもたくさんの浴場が営業中です。
また、洋風の建築を採用した銭湯や街の商店などにみられる正面外観を洋風な意匠をとり入れた、いわゆる看板建築をとりいれている銭湯も数多くみられます(看板建築についてはみちくさ学会「看板建築カテゴリー」をご覧ください)。

この一部、または全体に洋風な外観をとり入れている銭湯は名古屋銭湯にも多く存在しています。

① 新元湯

名古屋市の南側、国道1号線から古い街並み歩く。
途中には秋葉様を祀った社や浅間神社、古い商店が入る市場などが残る道をしばらく行くと新川の川沿いに出る。
この堤防道路から一段下がったところに建つのが新元湯です。



まさしく名古屋銭湯の洋風浴場部門の代表格といえる堂々とした造り。
トップにはアールデコ風の意匠装飾がみられます。
建物は大正13年の建築とか。
向かいには古い魚市場があり、昔はこの堤防沿いに漁業用の作業小屋や家屋が建ち並んでいたようなのですが、現在は土台を残して撤去されているために新元湯の建物が眺めやすくなっています。
この洋風建物は脱衣場棟にあたり、背後にはコンクリート製の浴室棟が接続している名古屋銭湯によくみられる銭湯建物の形式となっています。

暖簾をくぐるとハの字型になった左右の入口、右手男湯の中に入ると左手が番台です。
脱衣場はレトロな雰囲気満点、木製造り付けのロッカーは蓋に数字の書かれた古い物。
浴室への間には、中部圏銭湯独特のタイル張り緩衝地帯がしっかりあり、これがまた良い感じです。
浴室は中央には円形の浴槽と奥壁側の薬湯の電気風呂とジェット付きの浅浴槽のレイアウト。
細かい豆タイルが使われている浴槽は角を丸くしている中部圏スタイル。
古いけれどキレイに手入れされており、レトロ感満裁の見どころの多い銭湯です。
(内部写真などは前々章の「名古屋・中京圏銭湯の特色をみてみる」をご参照ください)

新元湯
名古屋市中川区下之一色町南ノ切54-1
営業時間 16:00~20:00
定 休 日 5.10.15.20.25.30日
上記定休日は愛知県の浴場組合HPよりの情報ですが、実際には店頭にその月の営業する日を示すカレンダーが掛けられているので現在は不定休のようです。


② エビス湯跡


実際には廃業している銭湯遺跡でありますが、新元湯を紹介するのであればこちらも紹介しない訳にはいかないであろう建物。
国道1号線から新川までの古い商店街沿いの中ほどに位置する大きな銭湯、平成15年頃廃業してしまった「エビス湯」です。
今でも建物は残り、エントランス上に右から書かれた屋号とその上に取り付けられた丸い照明が時代を感じさせます。
横の路地にまわって見ると裏手は普通の和風住宅になっており、この銭湯が横に長く大きな建物だという事がわかります。
中はどんな構造であったのかが気になるところではありますが、今となっては確かめる事は出来ません。

エビス湯跡
名古屋市中川区下之一色町西ノ切
※平成15年頃廃業


③ 寿湯


名古屋駅の西側、日赤病院近くの古い街並みの中に有る銭湯。
ここは旧遊廓の大門の内にある銭湯、廓内の風呂屋であります。
辺りには今でも古い妓楼の建物も結構残っていたりするのですか、老人福祉施設に転用されていたりして時代を感じさせられます。
現在ではその地域の中にもスーパーがあったりして普通の生活エリアになっています。

寿湯は人工石造りのアーチ型エントランスが特徴的な銭湯。
入口脇には中将湯の琺瑯看板が時代を感じさせます。
こちらの銭湯は実はまったくの洋風外観というわけではなく、正面のみがこの様になっています。
全体的には昔ながらの瓦屋根の載った銭湯建築となっています。



中に入ると下足箱は中部圏の特色である金属製肉抜き蓋の下足箱。
脱衣場は新建材張りであまりレトロ感はありません。
脱衣場と浴室との緩衝地帯は広く取ってあります。
浴室は奥壁側から電気風呂、バイブラ浴槽、普通の浴槽と半島型に浴槽が並んでいます。
奥壁には男女浴室に跨って大きな山岳のモザイクタイル絵があります。

寿湯
名古屋市中村区道下町4-5
営業時間 15:30~22:30
定 休 日 毎週 月曜日


④ 栄湯


栄湯は地元の人たちが雁道と呼ぶ昔ながらの商店街の南側に有る銭湯。
辺りには商店のひしめく通り抜け可能な市場や魅力的なホルモン屋などが並ぶ地域。
建物は通りに面して横長で壁にはスクラッチタイルの貼られた洋風の建物。
左手の自宅部分?の窓枠には古い幾何学的なデザインが残るレトロモダンな建物です。
ただ、屋根は瓦の載った千鳥破風でありまったくの洋風建築ではありません。
看板建築の範疇に入るのでしょうか。
入口部分は改装されてコインランドリーも増設されていますが、全体的造りから戦前の建物の可能性もあります。
中は脱衣場、浴室ともリニューアルされておりレトロ感はありませんが床やカランまわりのタイルなどが古い物を残しています。
なかなか明るく利用客も多い活気ある銭湯でした。

栄湯
名古屋市瑞穂区船原町2-6
営業時間 16:00~23:00  
定 休 日 木曜日
左手に駐車スペースあり


⑤ 共栄湯


共栄湯は昭和14年創業のレトロ銭湯。
本笠寺駅近くの商店街の中に建っています。
洋風の外観と入口脇の樹が合いまってなんとなくエキゾチックなたたずまい。
夕方の照明が点いたこの時間の眺めは良い感じです。

中に入ると横長のタタキに金属蓋の下足箱、脱衣場のロッカーは蓋が木枠にガラス入りとなっています。
脱衣場と浴室との緩衝地帯は白いタイル貼りでアーチ型の入口になっています。
中もレトロ。
浴槽はセンターに楕円形の主浴槽で二分割の深浅浴槽、奥側に電気風呂やジェットなどの浴槽になっています。
奥の窓外は庭のスペースになっており、その奥は釜場のようでした。
タイルは全体的に古い物が残されており浴室を明るくみせています。
内部構造は名古屋のレトロ銭湯の基本形を観る事が出来ます。

共栄湯
名古屋南区城下町3-37
営業時間 15:30~22:30  
定 休 日 日曜日
左手路地側に駐車スペースあり



愛知県の銭湯は軒数も多く、特徴的な良い銭湯も多く営業しています。
街中で今でも地域の人たちに愛され利用され続けている浴場が多いです。
今回はレトロで洋風な外観の銭湯をご紹介してみました。






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  • 1960年、東京生まれ埼玉育ち。現在は神奈川県藤沢市に在住。小さい頃は風呂屋のペンキ絵が描きかえられるのを心待ちにしていた子供でした。

  • 現在は路地裏散歩と居酒屋徘徊を趣味としており、産業遺産ならぬ生活遺産に興味を抱き銭湯や古建物などを見て巡っております。

  • 座右の銘は遠い温泉より近くの銭湯、かな。