「蛇行(だこう)」とは読んで字のごとく、へびが這うように曲がりくねって行くことを指すが、一般的には、川が曲がりくねって流れているところを「蛇行」と呼ぶ。
大河の下流部のように、Ω字のように極端に曲がりくねった蛇行もあるが、そこまで極端ではなくとも、川が左右に曲がって流れている様子全般を蛇行と呼んでいるようだ。下の写真は杉並区成田西の善福寺川緑地を流れる善福寺川。川の流れが緩やかにS字を描いているのがわかるだろう。


こういった蛇行は、暗渠でもみることができる。暗渠探検の楽しみのひとつとして、蛇行した暗渠を辿ってくねくねと歩いて行くことに魅力を感じている人も多いのではないだろうか。地図を眺めて暗渠の見当をつけるときにも、蛇行した道はひとつの目印となる。
写真だと、大きな蛇行や急な蛇行は空中写真でもないと納まらないので、ここでは緩やかなS字カーブに蛇行した暗渠をいくつか紹介してみよう。

まずは、渋谷区神宮前、東京の暗渠の中で、特に最近知名度の高い渋谷川暗渠の上流部。舗装され車道になっていて、なかなか暗渠だとは気づかないだろうが、ここが暗渠だと知っていれば、緩やかなS字カーブがかつて流れていた川の蛇行に由来するものだということがわかるだろう。白線がラインを強調している。


つぎは、文京区大塚の、水窪川の暗渠。東池袋に流れを発し、江戸川橋で神田川に合流していた小さな川で、昭和初期には暗渠化されているが、今でも川跡らしさを残した路地が続いている。写真の見事なS字蛇行は、かつてここに川が流れていた証だ。


続いては、目黒区中町、目黒川の支流、谷戸前川の暗渠。遊歩道風に整備されている。ここは地図で見ると直線に描かれているが、現地を歩くとこのように、蛇行というほどではないものの曲がりくねっている。曲がり方はややぎこちないが、やはり川跡らしさが漂っている。


コンクリート蓋暗渠の蛇行もいくつかみてみよう。調布市菊野台、深大寺用水の末端の暗渠。用水路ではあるが、この辺りは、もともとあった川を利用した区間だ。周囲はかつては水田だった。車道に沿った歩道のようになっているが、もともと川があって、その蛇行にあわせて川沿いに道が造られ、後に川は暗渠となり、道は自動車が通れるよう拡幅されたと思われる。


杉並区成田西、善福寺川に並行して流れる傍流のコンクリート蓋暗渠。冒頭の写真と同じ場所だ。道自体は普通にカーブしているだけだが、そこに埋め込まれたコンクリート蓋の暗渠は左右に蛇行していて、面白いビジュアルとなっている。


杉並区阿佐ヶ谷北、桃園川の傍流の暗渠。S字ではないが、ここも道とは異なったカーブを描いている。暗渠の蓋の曲線はある意味、芸術的だ。残念ながらこの暗渠は最近アスファルトで埋められてしまった。
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最後に、究極の蛇行暗渠を紹介しよう。写真ではわかりにくいので、地図をごらんいただきたい。


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台東区谷中と文京区千駄木の境界線になっている谷田川(藍染川)の暗渠だ。地元では「へび道」と呼ばれる有名な道である。北の上流側から南に向かっていくと、だんだんと蛇行がきつくなってきて、最後に直線区間に出るかたちになっていて、特に自転車で通り抜けたりすると面白さが味わえる。

暗渠は両側に建築物がせまっていることが多く、そのため、カーブや蛇行があると先が隠れて見通せないことが多い。そのことで、この先を曲がったらそこに何があるのか、という楽しさが生まれている。また、川の水が流れる過程でできた自然の営みによるカーブは、そのフォルムに一種の美しさがある。蛇行する暗渠を辿ることで、かつて、そこに確かに川が流れていたという実感が生まれ、ひいては、目の前に見える風景の裏に隠れている、かつて川が流れていた頃の風景が想像の中に広がっていくのではないだろうか。