社殿に向かう参道は、社殿を隠すように造られた蕃塀のために、迂回してつくられてしまうこともある。
あま市古道八幡社の「蕃塀」
蕃塀には木造や石造などさまざまな種類があるが、鳥居と拝殿(本殿)との間に建てられるという点はほぼ共通している。多くの場合、鳥居をくぐると蕃塀に行き当たり、真っ直ぐ拝殿に向かうことはできないのだ。このため、参拝者は蕃塀の横を迂回して奥へ進まなければならない。考えてみれば不便なものである。しかし、それを当たり前のように受け入れてしまえば、最初から参道が迂回して造られる場合もでてくるだろう。
名鉄津島線の七宝駅から北北西に約1kmの広大な平野の中に、あま市(旧海部郡美和町)古道八幡社が鎮座している。東側に住宅地があるものの、田んぼの中にある神社といってよい。
この古道八幡社では、境内に入り鳥居をくぐると、石造連子窓型蕃塀に突き当たる。コンクリートで敷かれた参道は、鳥居を経由して蕃塀に至ると直角に右折する。この参道の他にも、鳥居の手前から分岐する別のコンクリート敷の通路がある。これは別の境内社に向かうのだが、さきほど説明した右折した参道と合流している。そして、蕃塀の背後にはコンクリート敷の通路はなく(!?)、結局は古道八幡社の拝殿の前には土の地面を歩まなければ到達できない。何とも中途半端な状態である。
古道八幡社の蕃塀は、連子窓の上下にある横材が長押(なげし)のように見えるという、他の石造連子窓型蕃塀にはあまり見られない特異な形を持っている。そのことはさておき、ここでは蕃塀の向うにある拝殿をみておきたい。
古道八幡社の社殿は、拝殿・祭文殿・本殿という構成になっている。拝殿は、切妻屋根の三角形に見える面を正面にした妻入(つまいり)の殿舎で、壁がなく吹きさらしの状態となっている(上の写真)。まるで舞台のような構造だが、これが尾張地域によく見られる拝殿の形である。
拝殿の奥には3つの建物を組み合わせたような社殿がある(下の写真)。これが祭文殿である。祭文殿は切妻屋根の方形に見える面を正面にした平入(ひらいり)の殿舎が一般的で、古道八幡社も同じ構造である。祭文殿の奥にはご神体が鎮座する本殿がある。
このように、蕃塀が多く分布する地域の神社は、鳥居・蕃塀・吹きさらしの妻入拝殿・祭文殿・本殿の組み合わせが基本となっている。
さて、話が少し逸れたが、次の一宮市開明神明郭神明社の境内の写真を見てみよう。
壁が無い妻入拝殿の前にコンクリート敷の参道があるが、この参道は円を描いて迂回している。このような形になった正しい理由をまだ調べてはいないのだが、「この円の中には以前に蕃塀があったかもしれない」と思った貴方は、もう蕃塀マニアに一歩近づいているのかもしれない。